大正×対称アリス

(執筆:2017/11/22)

本レビューは、Windows版「大正×対称アリス」のEpisode1, 2, 3, Epilogueを合わせてレビューしたものです。
本サイトの特性上、得点はあくまで、乙女ゲーに全く関心ないエロゲーマーに対してのものです。


製作

Primula
(女性用のノベルゲーとか作っている… 商業ブランド?同人?すみませんよく分かりません。)

属性

発売時期:
ジャンル:ADV
用途:読み物
舞台:"鏡の国"という、概ね現代日本ライクな世界
顕著な性属性:乙女ゲー
プレイのきっかけ:当サイトの某エロゲレビューを読んだ人からの紹介…(プレイ前の期待得点…4点)
プレイ進捗状況:概ねコンプ

テキスト:6

あらすじ:
貴方(ヒロイン)は、気がつくとただ一人闇の中にいた。記憶もなく、ここがどこかも分からない。不安にかられていると、まるで意識を持っているかのように闇が貴方を呑み込もうとしてくる。貴方が必死に逃げてると、「アリス」と名乗る傲岸な青年に出会った。貴方とアリスは行動を共にして、どことも知れぬ闇の中をさ迷い続けていると、やがて目の前に鏡のような巨大な水晶が現れ、その水晶には見知らぬ男の顔が映し出されていた。水晶を抜けてその鏡の世界に入っていけそうだと分かった貴方達が水晶に飛び込むと……
そこは「鏡の国」。貴方はその世界の住人。その世界では、おとぎ話のヒロイン達の名を持つ青年達がいて、物語はまさに、彼らと貴方(ヒロイン) との物語が紡がれ始めるところだった。


頑張って私なりにあらすじ書きました。長いですが、本作の私なりの印象を過不足なく盛り込めたと思います。
エロゲ批評空間さんのPOVに、「不思議世界に惑う主人公達」という項目がありますが、本作プレイ中ずっと私の頭の中にあったのがこのフレーズでした。
本作の主な舞台である”鏡の国”で、主人公”貴方”は別に記憶を失っているわけでもなく、普通にその世界の住人として生活しています。 が、この鏡の国、最初から何だか現実味のないフワフワとした感があるのですが、プレイを進めれば進めるほど、変なのです。 人が箒で空を飛んだり猫が人語を話したりといった非現実的な出来事は起きるわけではなく、物語として展開されるのは(私よく知りませんが)そう変わったところもないガールミーツボーイ、すなわち乙女ゲー的なラブコメ寄りの概ねライトな恋愛ものなのですが、プレイヤーである私はプレイを進めるほどに「不思議世界に惑う」プレイヤーになっていく。疑問符やらツッコミどころやらでいっぱいになっていく。これらの疑問符はやがて段々と解明されていくのですが、そこまでくるとシナリオ求心力も強く、一気にエンディングまで進めてしまう。
このあたりが、乙女ゲーの枠を超えた、シナリオゲーとしての本作の魅力だと思います。プレイ序盤から中盤までに私の頭の中にあった疑問符やらツッコミどころが、最終的にほぼ完全に解決したことには舌を巻きました。
一方、これら疑問符やらがプレイの楽しさを阻害していたのも否めませんので、乙女ゲー要素を楽しめない私のような純粋エロゲーマーには、そのあたりがきつかったですね。
逆に、本作の本来のターゲットである精神的乙女の皆さんがプレイすれば、序~中盤までは乙女ゲーとして楽しみ、中盤以降は乙女ゲーとしてもガチシナリオゲーとしても楽しめる、実に手堅い作りになっているのではないかなと思います。

作品の方向性的に、これ以上は何を書いてもネタバレの恐れがあるので、このように極めて抽象的な表現しかできませんが、本作は、ジャンル不明作品です。現時点では概ねファンタジーと言って差し支えないのでしょうが、一方でクリア後に「本作はファンタジーでしたか?」と聞かれれば恐らく首を傾げることでしょう。その辺りも含め、プレイヤーが「不思議世界に惑う」作品。エロゲではないですが、例えば7th Expansionの「ひぐらしのなく頃に」「うみねこのなく頃に」あたりに近い作品かも知れません。「近いかも」というだけで実際はだいぶ違うし、あんなにマッチョな作風ではなく、もっと乙女ゲーらしく女性向けの優雅な感じですが。

作品のジャンルは差し置いて、本作の魅力はやはりシナリオ展開と世界設定、キャラ設定にあるのだと思います。それぞれ魅力的なキャラ達が織りなす人間模様が、本作の魅力を大きく底上げしており、それらに支えられながら作品全体を包む謎のヴェールが次第に明かされていく…という感じの作品。
よって、男女関係なく、読み物系の作品が好きな人には「一度プレイしてみたら?」とお勧めできる魅力があります。
基本的にはコミカルですが、時として鬱展開も刺激の強い描写もありますので、その辺りだけはご注意を、という。
読み物系単体としての評価は、ご覧の通り6点、すなわち及第点。途中、色々と感じてしまったツッコミポイントの多さ(後に謎解きされるのですが)、あと締めの弱さ(悪くはないのだけど)が、6点に至ったとは言え6点留まりになった理由です。
最後にお断りしますが、タイトルに「大正」ってありますが、本作は別に全然大正浪漫でも何でもないです。大正時代要素はほぼ無いと思っていいです。強いて言えば、舞台の「鏡の国」がやや大正ライクと言えなくもないくらい。


ゲーム性:4

うう~~~ん、これはもう本当に「惜しい」。

いやね、ここまで「あー、自分ADVゲームやってるなぁ…」と実感できる作りも昨今珍しいですよ。
本当に、”古き良き”ADVゲームという感。シナリオの要所要所で、主人公の行動(発言)を2択(時々それ以上)から選ぶというシンプルな作り。
あくまで私の狭い観測範囲での話ですが、昨今のエロゲのADVパートって、「このヒロインを今から攻略しますか?」と聞いているのがあからさまな、なんというか、例えば2択ならどちらがそのヒロインの好感度を上げるか誰の目から見ても明らかなものがほとんどで、どちらが正解だろうか、この発言をすると相手はどう感じるだろうか、この後どういう展開になってしまうだろうか、などと頭を悩ませるということが全然無いわけですよ。
本作は、それがある。選択肢を選ぶのが、楽しい。選択肢が、生き生きとしている。自分の選択によって、その後の展開が変わってくる。選択を誤ると、ゲームオーバーもあり得る。というか頻繁にある。まさに、ADVゲーム、なのですよ。

問題は、一部、難易度が高すぎることですね……。もう具体的に言いますけど、かぐやルート、これだけはあかん。攻略サイト見ないと自力攻略が至難というレベル。これはね、本当に駄目だと思うのですよ。1ルートでもこういうのがあると、プレイヤーの自力攻略への情熱自体に水を指すことになり、それによって作品全体へのプレイヤーの印象も損ねる。
あともう一箇所、最後の最後も、これはどうなったら全シナリオコンプなのか(自分がコンプしているのかまだ未踏のシナリオがあるのか)分からないため攻略サイトを使いました。これも、プレイヤーに優しくない、画竜点睛の出来栄えだったと思います。

全体として見れば、選択肢を選び、バッドエンドに何度も足を踏み入れながら正解を試行錯誤するのは楽しかったのですが、粗もある、という感ですね。


実用性:1

特に言うことはないです(目を伏せながら早口で)

音楽:5

BGMは全部合わせても20曲弱と少なめ。けれど適切に使用されていると思いますし、作品にもよく合っていると思います。曲数が多ければいいというわけではないことの好例。
それらに加えてボーカル有りのOP曲、ED曲。OPはアレンジ版有り。

ボーカル曲:2曲(アレンジ含まず)

キャラ:3

主人公:「百合花」名前変更可,頭の回転の早いゆるふわ不思議系女子。たまに英語が口をついて出る。
シンデレラ:ぶっきらぼうで尊大なボンボンだが、根は…
赤ずきん:何故か常に赤ずきんをかぶる、いつも丁寧な口調の冷静な青年。警察官である模様。
白雪:口数少なく色白で乙女のような外見だけど男。
グレーテル:弟的キャラ。丁寧な口調だけど陽気な感じ。
その他:主要キャラは他にもいますが、まぁこれくらいで。

そもそもこの「キャラ」項の点数は、ヒロイン達が一般エロゲーマー達にどれだけ"キャラ萌え"的な強い情動を引き起こすかによって評価されていますので、そもそも乙女ゲーである以上、しかも女性キャラがほとんど出てこない作品である以上、この得点はやむを得ない。というかむしろ高すぎるくらいである。
何でこんなに高いかって??ひょっっとしたら、極々少数でしょうが、主人公ヒロインがツボにハマる人もいるかもなぁと思ったからです。このヒロインからは、ほんの少しだけ、古き良き泣きゲーの匂いがする。

で、乙女の皆さんには、7点くらいでいいんじゃないかなと思いますよ。特にシンデレラさんはガチ勢。猟師さんも男前すぎてやばいのですが、この人攻略対象外なんですよねー、勿体無い。別ヒロイン作品でもう一回登場させろ!(謎の肩入れ)

まぁ真面目に書くと、なんだろう、男女関係なく、キャラ萌えとかではなく、プレイヤーに愛されるキャラ達ではないかなと思いますね。良い奴らです。
あと、これはお勧め度のところにも関係するのですが、男性から見て「うわっ…」となるような乙女ゲーキャラという感じかというと、そこまででは無いのですよね、男性陣が。
まぁ、「そこまでではない」ですが。程度問題ですが。乙女ゲーの中では控えめな部類なんじゃないかなぁと思いますよ。
一番乙女ゲーっぽいキャラは男の私から見ても好感度高かったりするし。極稀にある、カメラ目線で優しい目になって甘い言葉を投げかけてくる時を除いてですが。

声:男女

主要キャラフルボイス。サブキャラ(通行人Aレベル)は無声。今時めずらしい割り切りっぷりですね。乙女ゲーってこういうもん?

プレイ中は色々と思うこともありましたが、終わってみれば、どの声優さんもグッジョブだったのだと思います。

時間:4

さすがに4エピソードもあると、プレイ時間も割と長くなった。まぁ私の場合はリアルタイムプレイ日記書きながらやっていたから、普通にプレイする3倍はかかっていた気がしますが。普通にプレイして30時間弱くらいですかね?


その他

システム:各キャラの音声まで細かく設定できたり、システム周りは一通り揃っている印象。
演出:OPムービーはEpisodeごとに少しずつ変わります。

お勧め度:4

いや…。ここ、エロゲのサイトですからね…。まぁこの点数くらいでやむ無しでしょう。むしろ、エロ一切無しどころか男がカメラ目線で愛の囁きをしてくる本作で4点もあることを強調したい。
極々簡単に述べますと、シナリオゲーとしてのお勧め度6点から乙女ゲー要素で1点減点、お値段で1点減点、計4点。

本作はシナリオ(とキャラ)が売りだと言っても乙女ゲーであることは変わりないので、まずは乙女ゲー要素について少し所見を申します。
主人公のヒロインが割と癖の強いキャラクターで、頭の回転が早く常識もわきまえているけれど美人で自分のかわいさを自覚している無邪気で割と奔放な性格、おまけに相槌やら感嘆やらがなぜか英語、という理知的不思議ちゃんなので、同性からの当たりはきついのではないかなー、プレイしていて、ともすれば自分を重ね合わせたい主人公ちゃんがこのキャラクターだと、全国の乙女な皆さんもちょっと辛いものがあるのではないかなーと、ノーマルエロゲーマーの私、高みの見物。
逆に言うと、ノーマルエロゲーマーからすると、主人公ちゃんしか目立った保養がないのですよ本作!!主人公ヒロインは頭の回転も早い、美人、17歳、ちょっと不思議ちゃん、ゆるふわ金髪ヘアー、あと巨乳!
何せ隙あらば数々の美男子達がカメラ目線で好意の視線を送ってきたり言葉をかけてきたりするので、主人公で息継ぎでもしないとこの乙女ゲーの大海は、エロゲーマーの柔足ではとても泳ぎ切れん。
…と、こういう調子で、どうも本作は私、妙に肩肘張ってしまい普段以上にエロゲーマーとして挑んでしまったため、こういうわけのわからない思考に囚われていましたが、別に美男子達がカメラ目線で主人公に対し好意をダイレクトに示して来ても別に微風が吹くのと変わらんという人は、普通に物語をご堪能いただければいいのではないかなと思います。
ひとえに、シナリオ。これにつきます。割と面白かったし、よく出来てるなーと思いました。シナリオ好きな人、もし何らかの社会的要因等によってプレイするか否かの判断に迷った際は、「一度やってみたら?面白いよ?」と申し上げます。他にも、時々男がカメラ目線で愛の囁きをしてくる問題があまり重要でない人には、お勧め度1点プラス。私はある程度腹くくってプレイできましたが、乙女ゲー要素とか無理って人は、その無理な度合いに応じてもう少し点数下げてお考え下さい。まぁそこまで乙女ゲー乙女ゲーしてないし、私達男性はともすると混同しがちですが、ただの乙女ゲーであって、別にBL要素は無いです。これは個人的に大事だった。BLゲーなら私でももっと得点下がってた。私、男の娘とか一切無理な人間なので。
そもそもが全年齢作品ですし、そういう性的にハードな描写は無いという意味でも安心。少女漫画読んでる感覚に近い。少女漫画と違って、カメラ目線でヒロイン(=プレイヤー)に好意をぶつけて来る分ハードル上がりますが。

もう一つの問題はやはり、お値段かなぁと思いますね。
高い。
Windows版を普通に定価で買ったら、フルプライスエロゲ以上のお値段になるという。恐ろしい。それならフルプライスエロゲ買うわって話です、このサイトの推定閲覧者層的に。
私はEpisode2以降はディスクを中古で買いましたからまだ出費は控えめで済みましたけど(あ、今度市場に再放流しておきますね)、Episode1をDMMで購入した時は身を切られる思いでしたね。
高いよ。
とは言え、PS vita版はもっと安価なので、内容がどれくらい違うかは公式サイト等を参考の上、そちらを検討された方がいいかも知れません。
お値段気にならない人、中古やVita版などで安く入手できる人、恋人等から布教教材として貸し出されたという羨ましい身分の人には1点プラス。有識者に伺ったところ、Vita版は(ほぼ無いのですが)一部18禁表現が別の表現に変わっていたり、一部エンド分岐条件が変更されていたり(例:初巡は必ずBadEndを迎える)といった微修正はあるようです。




気に入り度:5

実用ゲー以外は途端に辛口採点になる当サイトで乙女ゲーでありながら5点もある!すごい!
いや、良い作品だと思います。これは心の底から。ただまぁ、私はほら、あれじゃない。ところどころ、心を無にして乗り切らざるを得なかったシーンが随所にあったものですから。ヒロインにでも癒やしを求めないと私の柔足ではとても渡りきらん的なところあったから。
アドベンチャーゲームとしては、大変楽しめました。それについては、テキスト項でもゲーム性項でも述べた通り。キャラ達も皆良かった。時々心頭滅却しないといけなかったけど。
ただなぁ…。
これは本当に強く思うのですが、あと一押し!!!ラストエピソード、あと一押しあれば・・・!!!そこで終わるのかー、うぅーーーん・・・・!という不完全燃焼感がすごいある。5点で留まってしまった最大の理由はそこ。いや、あれで終わりでもいいんですけどね。ここまで物語をずっと見てきた上ではやはり、物足りない。
まぁこんなところで書いても仕方ないんですけど。

最後に、ここまで読んで下さった、「大正×対称アリス」クリア済の乙女な人に。そうじゃない皆さんには色々ネタバレになる恐れがあるので、閲覧注意。
フォント反転で↓↓

そもそも私が本作をプレイするきっかけになったのが、当サイトでのとあるエロゲ作品レビューを読んだ御方が、その作品と同じものを扱った作品として本作を紹介して下さったからなのですが、その、とあるエロゲ作品は本当にお勧めします。ちょっと古いし、女性ながらハンコ絵と評判の絵師さんだし、基本男性向けだけど、もし本レビューを読んで「本来男性向け作品を女性がプレイ」というのに関心をお持ちいただけたなら、「俺たちに翼はない」、ぜひ!!
各種コンシュマー版、全年齢版もあるよ!


(この作品については、プレイ中にリアルタイムプレイ日記を書いておりました。)




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