装甲悪鬼村

(執筆:2024/01/19, 02/17)

製作

Nitro+
(近年ではエロゲ業界外での活躍が目覚ましいが、エロゲ業界においても虚淵氏作品を始めとする多数の骨太作品を出してきたブランド。作風が全体的にダークなのが特徴か。)

属性

発売時期:2009年10月
ジャンル:ADV
用途:読み物
舞台:歴史改変SF、大戦直後の日本(鎌倉など関東中心)
顕著な性属性:特に無し
プレイのきっかけ:名作だと評判で、特定1名から長年プッシュされていたこと(プレイ前の期待得点…7点)
プレイ進捗状況:最後まで

テキスト:9

あらすじ:遥か昔から、「劔冑」と呼ばれる、フルアーマーであり遥か上空をも機動でき、超常的な武力をも発揮できる武具を、特定の鍛冶師だけが己の命と引き換えに作ることができたという世界設定での、大戦直後の日本。世界大戦に敗北した日本は現在、大戦末期に国際連盟進駐軍に寝返った「六波羅」と呼ばれる組織に支配されており、庶民はその圧政に苦しんでいた。
舞台は鎌倉。いつもつるんでいた遊び仲間4人組のうち1人が突如失踪し、その仲間の行方を探るために他の仲間2人と行動を起こすことにした少年「雄飛」。実は鎌倉では、近年になりこのような謎の失踪事件が相次いでいた。調査を進める中で雄飛は、恐ろしく陰気な気配を放ち、警察関係者を自称する「湊斗景明」と名乗る男と出会う。男が同じく失踪事件の謎を追っていると知った雄飛達は協力を申し出るが、この男との出会いから雄飛達の人生は大きく転換することになる。


あらすじもそうですが、本稿は事前情報一切無しの人向けに書いていますので、抽象的で曖昧な表現が増えること、ご容赦ください。
ネタバレが嫌いな人はとにかく色々ネット等から情報が入らないよう注意してプレイされることをお勧めします。特にwikipediaは絶対見てはいけません。だいたいどこを見てもネタバレが書いてある。

さて本作、Nitro+らしいダークファンタジー、ダークヒーロー系です。ファンタジーというよりはSF寄りですが。
戦闘シーンに割かれる分量は少なくないのですが、本作は通常のバトルものとは幾つかの点で一線を画しています。
まず、戦闘が徹底的に理詰めである点。ライターご自身が武道家だそうですが、一対一、主に剣を用いての立会というものについて、地に足付いた描写が徹底されています。本作の戦闘の何割かは、「劔冑」と呼ばれるミニサイズのガンダム的な装甲内に人が入っての空中戦ですが、そちらも同様。
なお、むしろバトルシーン以外のシナリオ展開こそが本作の醍醐味と言えるでしょう。
本作のシナリオは、とにかく容赦がありません。本作はまごうことなきエロゲですが、、随所で「エロゲらしさ」を致命的に裏切ってくるエロゲです。また、「エロゲらしさ」に加えて、王道展開をも裏切ってきます。しかも、どこでその裏切りが生じるかなど、先の展開が見通せない。それでいながら先の展開は大変気になる。随所で王道を外しておきながらプレイヤーの心はしっかり掴んでくる、素晴らしいストーリーテリングです。その源泉は、大きく3つあり、まずは、蓋を開けてみれば納得のいくシナリオ展開。続いて、巧みで魅力的なキャラクター描写、心情描写。最後に、シナリオを通して浮き彫りになってくるメッセージ性の明確さ。
メッセージ性という意味での本作の主軸は、まず「悪」と「正義」でしょう。しかし、この手垢の付きまくったテーマに加え、ライターはもう一つ、悪なり正義なりを執行する「武」(&それらの執行者「武人」)というテーマを盛り込み、「悪」「正義」「武」の3つを軸としたシナリオを展開しているよう見受けます。
このようにメッセージ性が明確でありながら、一方で、メッセージ性そのものはそう強いものではなく、読者に委ねるところも多分にあります。

ただし難点も幾つかあって、まず、ライターがガチで来てるだけあって、プレイヤーにもガチを求める傾向が強いこと。これは以下の「ゲーム性」で語ります。
続いて、論理的だの明確だのと褒めてきましたが、だからこそ「いや、そういうことならばそうはならなくない…?」と思ってしまう箇所も時々あり。これは、気にならない人はならないでしょうが。
最後に、ギャグ描写。特に一部キャラ達のギャグは、合う合わないが分かれるんじゃないかと思います。私はかなり合わない方で、前半のギャグパートはほとんど駄目でした。どっかのサイトには「ギャグ描写に定評がある」的なことが書かれていたので、ここはあまり問題にならないのかも知れません。

とにかく、本作をプレイ中、繰り返し、「これは英雄の物語ではない」という本作キャッチコピーと、そして「装甲悪鬼村正」という本作タイトルを、プレイヤーは思い出すことになるでしょう。
一点の手抜きも無い、真剣勝負のシナリオ。刀身のように研ぎ澄まされたキレと、グツグツと滾る熱量の共演。ライターの魂がこもっています。


ゲーム性:5

ADVのゲーム性、かくあるべし
・・・と言うと言い過ぎでしょうが、「プレイヤーに選択させる」ということの意義と意味を、ライターはよくよくご承知なのだと思います。
通常のADVゲームと同様、プレイ中に時々選択肢が出てくる形式です。その選択肢はたいてい2択なのですが、まずそれらだけ取っても、重い選択肢が多い。
一見重くない選択肢も、後から「あ、これもあれも重かったわ」って気付かされたりする。
しかもそれだけでなく、特にバトルシーンで、しばしば主人公の行動選択を問うて来ます。それが、2択どころか、5択×7択とかがザラになるんですよ(実質正答率1/35)。酷いのになると・・・ まぁこれくらいにしておきましょう。
ライターの「自身がこれだけ誠心誠意、魂を込めて執筆しているものを、片手間に選択されたくない」という怨念のような執念のような思いを邪推してしまうのですが、とにかく本作は、ゲームパート(選択肢)を通して、プレイヤーにも、真・剣に本作シナリオに取り組むことを、強く求めてくるのですよ!!!
プレイヤーが、必死に考えて解答しないと、シナリオは1mmたりとも先に進まないようになっているのですよ!

無論、攻略サイトなりを見てしまえば、そんなものは秒殺ですよ。制作陣もそんなことは百も承知でしょう。私も、そういうプレイだってあって良いと思います。
ただ、この、ライターから挑まれたシナリオの真剣勝負。
これに真剣に挑んでこそ、本作を十全に楽しめたと言えるだろうなとも思います。


・・・などと決めてみたものの。
いや、とは言っても、実際・・・ね・・・・・・。
とにかく、テンポ悪いんですよ。1つのシーンで、ああでもないこうでもないと延々と選択肢を選び直しているというプレイイングは。
本作、ただでさえ重厚なのに、ちょっと重厚に過ぎるんじゃないかと不平を言いたくもなるし、攻略見たくもなるのですよ。真剣勝負挑みたいのもわかるが、それにしたっていい加減にしろって言いたくなりますよ。

選択肢。これもまた、本作が放つ猛烈な個性の一つと言えるでしょうね・・・。

実用性:3

いや、使えんよ。使えないけど、スキップ無しで読んでしまうし、聴き入ってしまうよ。
優れたシナリオ系エロゲというのは、往々にしてHシーンもきっちり読ませてくるんだよなぁ・・・。

音楽:6

本サイト随所で語っておりますが、BGMというのは、前面に出てきて作品の雰囲気を露骨に高めてくる(ともすればBGMへの印象に作品評価が引っ張られる)タイプのBGMと、その名の通りBGMに徹して作品の雰囲気をさり気なく高めてくるタイプに分かれると思っているのですが、本作は完全に後者。
良いです。良いけど、悪目立ちしません。
ボーカル曲は、すみませんが個人的には正直作風とあまり合っていない曲もあったと思います。マイナスになるほどでは決してないのですが。(過去に、マイナスになったボーカル曲ありましたからね…)

ボーカル曲:何曲かあった

キャラ:7

↑この「キャラ」っていう項目、いわゆる「キャラ萌えをしてしまう度合い」を評価しているのですが、本作で久々の高得点が出た。
ちなみにメインヒロインではありません。
本作のメインヒロイン、一人はぶっ飛んでて「メインヒロイン」のゲシュタルト崩壊が起きそうですし、一人はパーツだけ見れば超正統派メインヒロインなのに彼女が超正統派メインヒロインであることをシナリオの方が全力でブロックしてくるし、とにかく正統派ギャルエロゲーのような萌えの香りは本作には縁遠いです。代わりに硝煙の匂いでも漂ってきそう。

ただ、何を書いてもネタバレになるのですが、他に書くところもないので一人だけ語らせてください。
あらすじのところでも挙げた「湊斗景明」という陰気な自称警察官(無論、男)。このキャラが、飛び抜けて良い。異様に良いと言ってもいい。
よくこんなキャラ生み出せたな。
いそうでいない、凄いキャラです。
あまり最初からハードルを上げすぎると多分肩透かしに終わるとは思うのですが、それでも言いたい。
本作が持つ凄みの一端は、間違いなくこのキャラにある。このキャラだけでも、本作はプレイの価値がある。

声:男女

フルボイス。
豪華声優陣です。要所要所で耳が幸せ。(恐らく男性プレイヤーも女性プレイヤーも。)

ただのしょぼい三下悪役かと思っていた某キャラが終盤で覚醒して声も覚醒してこっちが「うおおおお!もしや貴方は!!?」ってなったり、予習なしで挑むと凄かった。
上でキャラ萌え7点付ける理由になったキャラも、声が猛烈に良かったというのが大きい。
でも、やっぱり、声と言うなら、「湊斗景明」。この人、声も良すぎだろ・・・・・・。

時間:5

とにかく長い。長大です。
しかし本作の何が凄いって、その長大さが全然苦にならなかったことです。中盤以降はずっと、この後はどうなるのかと先の展開が気になりスラスラとプレイ続けることができました。(おかげでリアルに少なからず支障が出てしまった)


その他

システム・演出:
ゲームパートでも書きましたが「テンポが悪い」が合言葉です。ほんっとうに、テンポが悪い。
システムも演出も、ものすごい拘りなのですが、その弊害なのか、とにかくシステムが重い。
しかもバグで強制終了する。
しかもそのバグが強制終了の度に悪化し、プレイ続行困難になる。
一度は、半ばプレイを諦めました。
そう、私はWindows11ユーザー。サポート対象外。だから自力でなんとかするしかないのよ。
OK分かった、まずテンポが悪い問題。見づらいコンフィグ画面をよく見たら、「次の選択肢までスキップ」的なコマンドが潜んでいる!
私はこの存在に気づいたのがプレイ最終盤だったので結局一度もこれを使ってませんが、これさえ使えば、「あまりのスキップの遅さに、スキップ中は中座して他の作業をして十数分後に戻ってきてまた一つ選択肢を選びまた中座して・・・」といったプレイイングをせずに済むはず。
いや本当にね。
一度読んだシナリオならテキストの文字をだいたい追って読める程度のスキップ速度って何なの。
で、バグの方は、クイックセーブを使うことによって生じることが判明したので、クイックセーブを使うことなくプレイすることで回避できました。ご参考になれば幸いです。

お勧め度:9

本気で向き合うのであれば、本作ほど本気で向き合うのに適した作品もそうそう無いと強くお勧めできます。真剣にシナリオ系エロゲを堪能したいという人には、その嗜好を問わず必修タイトルの一つと言えるでしょう。
それだけでなく、「エロゲなんて適当に楽しめればいいんだよ」「攻略が面倒なら攻略サイト見ればいいでしょ」という人も恐らく普通に楽しめると思います。
それくらいの質と間口の広さも兼ね揃えています。
ただし、本作にそういうものを求める人はいないと思いますが、エロゲとしてのベタな展開、物語としてのベタな展開を求める人には、本作はひどく不向きです。




気に入り度:9

とにかくプレイを通してライターの掌で踊らされていた感が強いですが、とかく論理的な作風ですので、決して不快ではありませんでした。むしろ、ライターによる全力のエンタメを全力で楽しませていただいたという満足感でいっぱいです。
加えて、このライターにはやはり敬服の念を抱く。よくぞここまでの作品を書き上げてくださったなと。細かいこと言えば色々あるしそれは余すこと無くリアルタイムプレイ日記の方でぶちまけてしまったのですが、なんだろうな、作品への気に入り度9点というのは、本作に限っては、本作自体を気に入ったというよりは、ライターへの敬服の念に近いです。正直本作自体をそこまで「気に入った」わけでもない一方で、本サイト評価基準で気に入り度8点以下というのは畏れ多くて付けられない感というか。
とにかく、すごい作品でした。創作の凄みを見たというか、ライターに打ちのめされた。
つい最近「恋ではなく」という作品へのレビューで、「これ以上のエロゲに今後出会うことはできないのではないか」と書いたのですが、その作品に(全く別ベクトルながら)匹敵するような魂の作品に出会ってしまって、正直驚いています。

(この作品をプレイ中、リアルタイムプレイ日記をつけておりました。)





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