恋ではなく― It's not love, but so where near.

(執筆:2022/08/01-16)

製作

しゃんぐりらすまーと
(あかべぇそふとつぅの姉妹ブランド。現在は「あかべぇそふとすりぃ」に統合。本作紹介ページURLはこちら

属性

発売時期:2011年5月
ジャンル:ADV
用途:読み物
舞台:現代の岩手県酒田市&飛島
顕著な性属性:純愛
プレイのきっかけ:セールで安かったから なんか真面目なタイトルに惹かれて(プレイ前の期待得点…5点)
プレイ進捗状況:全ルートクリア

テキスト:8

あらすじ: 幼少時からカメラ(デジカメではなく銀塩カメラ)に没頭してきた主人公「八坂典史」は、幼少期からのガキ大将でいつも一緒に遊んでいた「阿藤扶」に請われ、扶監督の映画撮影にカメラマンとして参加する。扶は、学園生活最後の締め括りという名目で、密かに想いを寄せていた典史・扶の幼なじみであり、現在はプロのモデルでもある「槇島祐未」を主演女優として映画を一本完成させたかったのだ。幼少期にいつも一緒にいた3人が再び集うことになったわけだが、典史と祐未は、かつて起こったある出来事をきっかけに、険悪といっても良いような関係性であり、現在は全く交流もなかった。撮影チームには他にも、複数の部活のメンバー達が集まり、それぞれの事情や思いを抱えながらも、完成に向けて一致団結していた。そのような中で、典史と祐未は、お互いへの想いをぶつけ合っていくことになる。

ものすごいシナリオでした。
本当にすごい。
まず、ガチ純愛ものです。それでいて、「恋ではなく」という表題は、割と絶妙。
また、とてつもなく、青春ものです。真っ直ぐ過ぎて眩しい。眩しすぎる。このたとえは全てプレイ終わった今はじめて思い浮かんだのでかえって表現が不適切かも知れないけど、宮崎駿作品の登場人物達(特に思春期・青春期の登場人物)みたいな真っ直ぐさです。
そして、ザッピングものです。視点がしょっちゅう変わる。
ただ、ザッピングとは言え、視点はほぼ、主人公である典史と祐未2人のみ。基本、これらの視点が交互に入れ替わりながら、物語が展開していくという感じ。
あと、冬ゲーです。主人公達の寒さ耐性が強すぎる気もするけど。(雪国育ちってこんなもんなの?)
で、何がすごいって、複数ルートあるのだけど、全ルート、ブレなく、主人公である八坂典史と、もう一人の主人公である槇島祐未の物語です。
こんなことある?同じヒロインとの純愛が、何回も描かれるんだぜ!?他にもいっぱい魅力的な男キャラも女キャラもいるのに、シナリオの中心的人物はいつも八坂典史と槇島祐未なんだぜ!?

そして、舞台が(ほぼ)現代の日本の岩手県酒田市ということで、当然ながら実在の場所も頻繁に出てきますし、登場人物達は程度や方向性の違いこそあれ皆カメラ好きばかり(なおデジカメ好きは一人も出てきません)でカメラについてのマニアックなうんちくやら説明やら描写やらが本作もう一つの主題といえるくらい盛りだくさんに出てくるのですが、つまり、本作、ガチでリアリティ重視なんですね。ファンタジーとかオカルトとかの要素は皆無。だからこそ、登場人物達も、なんだろう、少なくともテレビドラマの登場人物レベルにはリアリティある。(これあんまり褒めてないですね)
なんでこんな表現になるかっていうと、主人公の一人である典史は正直、感情移入は十分にできるのだけど、それこそジブリアニメみたいな真っ直ぐさで割と完璧キャラなんですよね。それに対して、もう一人の主人公にしてヒロインである祐未は、現役モデルをやっているだけあって美貌とスタイルの良さは浮世離れしているものの、人間臭さがすごい。決して可愛いだけのヒロインではないのです。現実に本当にいそうな生々しさ。
しっかり、地に足ついた作品だと思います。

綺麗で眩しい一方で、ほとんどドロドロとはしていないのだけど、決して軽くない。
この、ガチ純愛もの、しかも男女ともに複数がメインキャラクターから構成されているのに、ほとんどドロドロしていないというのがまた良いんですよ。
そりゃ、あらすじとここまでの話から分かるように、三角関係のようなものにはなりますよ。ただ、そういうのが主題じゃないんですよね。

ただ難点を言うと、そうは言っても、各ルートで、展開こそ違えどあまりに方向性が同じなため同じような話が繰り返されるから、胸焼けもしてくる。ここだけは残念。

泣きゲーとか涙で前が見えないとかいうことはありません。
ただ、本気の本気の作品なんだなってことがひしひし伝わる、素晴らしいシナリオでした。

ゲーム性:4

選択肢が結構多く出てきますが、それがどれも登場人物達の微細な心情の僅かな違いを表すものばかりで、結果としてルート分岐ポイントが割と分かりづらくなっています。
攻略は難しいものではないものの、攻略としてのゲーム性という意味では、あまり良いものではないでしょう。
一方で、選択肢自体を選ぶ楽しみがあり、また自分の選択と、その選択によって動いていく物語、人間関係に、愛着を感じました。少なくとも私は。
なお、自力攻略できる難易度でした。

実用性:4

生々しさもを感じさせる、素晴らしいHシーンです。本当に素晴らしい。
エロいかエロくないかって言ったら、エロいです。
ただ、使えるか使えないかって言ったら、属性突き刺さっ人以外には多分使えません。
多くのエロゲのHシーンというのはシナリオとは別にHシーンが用意されている感が強く、だからこそ全年齢版やアニメ化なんてのも比較的容易にできるようになっているのですが、本作の場合は純愛をど真ん中に描いているだけあって、Hシーンもシナリオそのもの、むしろHシーンこそ外せない、それくらいの存在感ある描写なんですよね。
もちろん本作は大変良作ですのでHシーンを取り除いても十分良作足り得ると私は思いますが、本作Hシーンを読んでしまうと、これらを削るというのは物語のとても大事なものを切除しているなと思います。
まぁつまり、初々しいカップルの結ばれる様が割と生々しく描かれているわけですので、そういうのがたまらない一部の人には大好物でしょうし、そうでなければ娘のウェディング姿を目元にハンケチをあて「うん、うん…」と頷きながら見守っているお母さんに近い感覚で本作Hシーンを見ることになるのではないかなと、本作にどっぷり感情移入した私には思われます。別の表現をするなら、月並ですが「保健の授業の参考資料に指定しろ!」。

あと細かいことですが、本作はマルチザッピング方式ですが、Hシーンも割とマルチザッピングだからね。すごいよね。
私、Hシーンでの男性ボイス撲滅を日々訴えていますが、本作ではHシーンでも男性がきっちり喋るものの、それが悪目立ちしないよう配慮されているようで、好感は持てました。


音楽:6

結構長い時間聴いていましたけど、聞き飽きるということもなく、また目立たず、BGMに徹するという感じのBGM群。それでいて、ここぞというシーンではきっちり場を盛り上げる良い仕事っぷりでした。
曲単体で何度も聴きたいという曲こそなかったものの、BGMとして文句なしです。

ボーカル曲:3曲?

キャラ:6

八坂典史:主人公の片割れ。真面目なカメラバカで、カメラのこととなると周りが見えなくなるものの、常識的で穏やかで人当たりの良い性格。ただし唯一祐未のこととなると感情的になる。
槇島祐未:主人公の片割れ。典史より一つ上の学年で、学園に通いながらプロのモデルをしている。典史の幼なじみ。美人だけど見た目も内面もクールなため現在ではほとんど友達がいない。幼少期から典史とはライバル関係にあり、典史はカメラの腕を、祐未はモデルとしての腕を磨いてきたという経緯がある。しかしある出来事があってから絶縁に近い状態。

その他、ここでいちいち列挙しなかったものの、列挙に値する主要キャラが10人ほどおり、特にそのうち過半数が、主人公2人と同じく映画撮影チームで、その映画撮影チームを中心に物語が進みます。

ただその…。

エロゲ的にヒロインと呼べるのが祐未一人だけなので(なんて潔い!格好良すぎだろ!!)、本項では祐未一人のキャラの魅力を評価せざるを得ない。
祐未は、とにかく人間臭いヒロインです。美人だけど、性格は決して完璧じゃない、割と年相応なところも見せるし、感情的にも振る舞う、そういうヒロインです。でもまぁだからこそ、魅力的とも言える。本作、トモセシュンサク氏の描く人物CGが綺麗で、そういうキャラの祐未もCGと相合わさると、悔しいけど可愛いんですよね。

声:男女

フルボイス。
ヒロインの祐未は(声優さん名見てびっくりした、大ベテランじゃない)さすがすごく魅力的ですし、他のキャラ達もそれぞれ魅力的です、特に私は扶の声が大好きでした。
ただ不満点が一点あって、ライターの意図したであろうイントネーションと実際の声あてのイントネーションが違うんじゃないかなって感じさせられる箇所が何箇所もありました。
同じテキストでも、文脈によって声って変わるじゃないですか。例えば「あぁ、」だって、悲嘆の「あぁ…」もあれば、同意の「あぁ」もあれば溜息の「あー」だってあるじゃないですか。「この文脈で、このテキストに、この口調って、おかしくない?」って思わされたところが何箇所か。
膨大なテキスト量なので仕方ないのかも知れませんが・・・。

時間:5

正直、1ルート目を終えた時点で、もう「若干短いかもしれんけど、もうここで終わって良いぞ!十分満足だったぞ!!!」って気分でいっぱいでした。
そしたらまだまだあって、それでかえって評価も難しくなってきたという。
ボリュームという意味では、決して物足りなくはないでしょう。
ただ、本作もまた、このボリュームの多さに対して逆に疑問を懐いてしまう、難しい作品だなと思います。ここまで伸ばす必要は、本当にあったのかと。

その他

システム:
私基本的にオートモードでプレイしていたのですが、メッセージの表示速度と切り替えの速度で微調整ができるため、オートモードの快適さには特に不満ありません。
ただ、「選択肢後のオート・スキップを継続」を選択していても、選択肢後ではなくアイキャッチ(シーンの切り替わりポイント)ごとにオートモードがOFFになるため細かいシーンごとにオートモードONにしないといけなかったことには、少々辟易しました。ここはチェック甘かったですね。

演出:
恐らくカメラマニアのライターによる、カメラ好き達の物語なんで、カメラについての描写がよく出てくるんですけど、それに合わせてというか、普通のシーン(背景&立ち絵)でも、カメラ越しに覗いたシーンが演出されることがしばしばあります。これがまた、そのシーン描写をより魅力的にもするし、またカメラの魅力も無言で語っていて、良い演出なんですよね。
で、そういう演出があるから改めて思うんですけど、人物のCGも背景も、とても綺麗ですね。
もちろん、CGのずば抜けた美しさに定評あるブランドなんかにはかなわないかもしれませんが、私は本作の人物・背景どちらも好きですね。
あと、CONFIGモードで各キャラごとにボイスの音量やON,OFFを選べるのですが、その時に各キャラのテストプレイをすると、各キャラが「物語内での私の立ち位置は…」的な感じで1分くらい雑談混じりに自己紹介してくれるのが気に入っています。なにせ登場人物が多いので最初のうちは誰がどういう立ち位置か曖昧になるのですが、それをここで(各キャラの立ち位置だけでなくキャラの個性まで)確認できるというのも嬉しいですね。

お勧め度:8

エロゲだけに留めておくにはあまりにも勿体ない、それでいてエロゲだからこそ完璧に描くことができた(エロゲ以外の媒体ではこの完成度は出せない)作品です。
本当は、「これはぜひとも広く遍く布教せねば」って気持ちでいっぱいなのですが、相当尖った作品なので、どうしても粗や粗になりかねない特徴もあり、合う合わないが激しいようですね。
本作の大きな特徴の一つとして、テキスト項で述べたように、シナリオの中心はいつも特定の男女2人だってことです。そのため、ルートが複数あって当然ながら展開も変わるのですが、展開はともかく、スタート地点も背景も同じところからの分岐だから、どうしても、似たような状況が多すぎて混乱してきたりダレたりしてしまう。テキスト項で述べましたが、これはやはり最大の欠点だと思う。ルートをあと1つ削るか統合するかできれば、最高だったんじゃないかなと考えてしまいます。
それと大きく関係するのが、その中心人物(実質の単独ヒロイン)である槇島祐未のキャラクター。これが、キャラクター項で述べたように人間臭いので、「いかにもエロゲ・ギャグゲに出てきそうな美少女ヒロインとの、いかにもエロゲ的な萌え恋愛もの」みたいなのを期待している人には、本作は全くお勧めできない。
そして、私はむしろ高評価だったけど、作品全体、カメラマニアとしての鼻息の荒さがすごい。特にクリア後の余韻までぶっ壊すスタイル(これは構成ミスだと思う)は、いくらカメラ蘊蓄をカットしたくなかったとしても、さすがに修正しろと思った。

安っぽい恋愛ドラマや映画とも違うノベル、特にエロゲとしてのノベルゲーを楽しみたいという人には、ぜひプレイしていただきたい。本作を出す上で、エロゲという媒体こそが、映画や小説、ギャルゲや漫画といった他のどの媒体よりも相応しい、まさにエロゲという媒体を100%活かした作品だと思います。
私、エロゲは読み物として楽しむかゲーム性・キャラを楽しむか実用性を楽しみたい人間であり、恋愛もの(恋愛を主軸においたエロゲ)自体に全然興味が持てない人間なんですが、そういう人間がプレイして大満足だったということが、ご購入の参考になればと思います。
いや、セールで買って発売日10年以上経ってからこんなこと言ってる私が一番滑稽ですけど、こんな作品が出るならエロゲ業界はまだ全然戦えると思ったし、こういう作品が(全員にとは当然言わないまでも、それなり以上に)評価されないならエロゲ業界って何なんだよとすら思いました。



気に入り度:9

いやもう、最高でしたよ。最高だったけど、胸焼けがすごい。胸焼けがすごいけど、でもやっぱり最高だったんで。
疑問符付きの高評価です。ちょっと評価甘すぎな気がする。
本当に尖りまくってる。尖りすぎててバランスが犠牲になっている。よく商業作品でこれやったなとつくづく思う。(この攻めの姿勢、絶賛したい。)
こういう作品に仕上げた、ライターはじめスタッフの心意気に、打ちのめされた。

もちろん、そういう心意気なんてのは作品の中身あって始めて評価できる部分であり、作品の中身だけ見ても、シナリオの存在感、キャラ達の純さ、真っ直ぐさには、眩しさと大きな感動がありました。
正直、1ルート目だけでもう十分満足だったくらい。(逆に、1ルート終えて全然ピンと来ないなら残りも時間の無駄でしょう。)
わざわざ用語集まで用意して作中随所で語られるカメラ蘊蓄描写も、用語集含めて全然分からないからこそのマニアックさが、また私には扱う内容の専門性とオタクの情熱の真っ直ぐさと捉えられて好印象でした。
そして、多分これが私のツボに入った大きなポイントなのだと思うし人を選ぶ部分でもあるのだと思うのですが、実在する土地(山形県酒田市)を舞台にした、実在するカメラ各種がふんだんに登場する、超常現象もファンタジー要素も皆無の、真っ向勝負の恋愛ものであるという点。作品を地に足つけようというライターの気概がひしひと伝わってくる。私「聖地巡礼」というものにあまり興味ない人間ですが、今は機会あらばぜひ酒田市や飛島を訪れたいと思ってますからね。

「俺たちが体験できなかった理想の高校生活」風恋愛シナリオってあるじゃないですか。
いかにもな学園生達が「授業が始まったが別のことばかり考えていて内容は全く覚えていない」だとか「よぉ主人公、学食行こうぜ!購買のパンが売り切れちまう!」だとか「あのね、主人公君・・・。もしよかったらだけど・・・私が作ってきたお弁当、どうかな・・・?」だとか「学園生達による自主性と自治が重んじられる本学園において、生徒会には絶大な権力が」だとか、需要があるのは分かりますし好きな人達はどうぞ楽しんでくださったらいいんですけど、私個人としては正直辟易しているんですよね。
本作は、そういう「いかにもな美少女ゲーム感」満載の「学園生」ではなく、真面目に生きている真面目な「高校生」達のお話なんですね。
結果として、良い歳したおっさんが、自分の歳の半分も生きていない小娘達の恋愛物語に没頭したわけです。
それはやっぱり、彼らがやろうとしていることが、彼らが当たり前のように駆使するマニアックなカメラ知識などからも伺えるように現実の私自身(プレイヤー)には無い知識・技能を用いた特殊な活動であり、チームメイトと建設的なコミュニケーションを図りながら彼ら各々が自分の置かれた状況・自分に与えられた役割の中でそれに情熱を傾ける姿には、歳関係なくリスペクトの気持ちが芽生えるからなのだと思います。

一般文芸や映画や演劇などならまだしも、こともあろうにエロゲやっててまさかこんな作品に出会えるとは正直全く期待していなかったし、しかも全年齢コンテンツではなくエロゲであるというアドバンテージもきっちり発揮されているし、多分二度とこんな作品には出会えないだろうなとも思います。



(この作品については、リアルタイムプレイ日記でも触れております。)





web拍手
 一言メッセージ機能としてもご利用いただけます。
 いただいたコメントには後日日記にてありがたくレスさせていただいております。


  戻る  
  攻略     プレイ後用レビュー     日記過去ログ  
  Top Page