ぼくの一人戦争

(執筆:2022/10/30)

製作

あかべぇそふとつぅ
(シナリオ系かエロ寄りのADVゲームをコンスタントに出してくれるブランド。あかべぇそふと系列の総本山感ある)

属性

発売時期:2015年2月
ジャンル:ADV
用途:読み物
舞台:現代の日本の海辺の町
顕著な性属性:
プレイのきっかけ:ライターのファンだから(プレイ前の期待得点…5点)
プレイ進捗状況:クリア

テキスト:5

あらすじ:里見永治は、数年ぶりに故郷である海辺の田舎町へと帰ってきた。故郷では、兄である蓮司と婚約者るみとの3人での共同生活が始まる。元々、永治達の両親が離婚した時、蓮司は父とこの町に残り、永治は母に連れられ東京に出たのだった。しかし永治の生活は荒れていた。そして、人を殺した。二人の両親が共に他界した今、故郷には、やり直すために戻ってきたのだった。故郷では、蓮司やるみ、そしてクラスメイトであり二人の仲間達が温かく迎えてくれた。永治はこれから、やり直しができるだろうか…


「車輪の国、向日葵の少女」「G線上の魔王」で有名なるーすぼーいの作品!
ということで注目も高かったと思いますが、いやぁこれは…。
今回は、現代の田舎町を舞台にした伝奇っぽいファンタジーヒューマンストーリーという感の作品です。
基本リアルなのですが、ファンタジー要素有りなのですね。そのファンタジー要素が、なんていうかなぁ… 隠されたルールを主人公達が手探りで探っていく系ではあるのですが、私の理解が正しければ、設定が破綻しているか、それか全ての設定を明示しないまま物語を進め、終えてしまったか、のどちらかなんですね…。
ファンタジー要素の設定がシナリオの根幹を成してるのに、その設定が非常にモヤモヤのまま最後まで終わるものだから、シナリオに対してプレイヤーがプレイ中に抱くであろう「これ、どういうことだろう」「背後には何があるんだろう」といった疑問も、モヤモヤしたまま終わってしまうのです。これ、相当まずいでしょう。

それだけならばただの地雷作ってことで終わりなのですが、何が腹立たしいって、そのファンタジー設定をめぐるモヤモヤの部分を除けば、シナリオは本当に良い素材の数々で、さすが食材選びにも長けたるーすぼーい先生、あとは先生の料理の腕だけ!っていう状態で、プレイ中は今後のシナリオの展開もさることながら、作中で描かれるいかにも重要そうな要素のあれこれがどう料理されるのか気になって仕方なかったんですよね。要は、プレイしていて楽しいのです。「ああ、こういう感じ、エロゲーだなぁ」と感じるというか、シナリオ系エロゲの醍醐味を味わっていたのです。
本当に、なぜこれだけ面白くなりそうな素材を集めておきながら、手抜き・生煮えのごった煮みたいなのを「はいどうぞ」と出してしまったのか。途中で面倒くさくなったのか。だいたいのクライマックスだけ決めて勢いで始めてみたけどやっぱり収拾つかなくなったのか。

序盤から終盤にかけてずっと楽しくプレイしていたのは事実です。けれどやっぱり、その「次は一体どうなるんだ」という期待・ワクワクは、きちんと完成度が保たれたものへの期待であった以上、クライマックスからのエンディングで「はぁぁ??」ってなり期待が裏切られた以上、評価は厳しくせざるを得ないと思います。るーすぼーいの作品は過去4作プレイしましたが、プレイ途中では本作が一番洗練されているように見えていたにも関わらず、プレイ後の印象は本作が最悪でした。
プレイ後の感想は、「地雷踏んじまったわー」的ながっかりではなく、「なぜベストを尽くさなかったのか」という憤りと「なぜベストを尽くせなかったのか」という悲しみ。
以下、キャラ設定と舞台設定について長々と書いてしまいましたので、関心ある人だけお読みください。


キャラ設定
実に良い素材。各キャラが魅力的かというとそこは普通です。エロゲ的というかいつものるーすぼーい作品らしいヒロイン達も出てきます。そこは普通のシナリオゲーなのですが、シナリオゲーどころか一般文芸作品としても良い作品が描けそうな、現代日本で生きるある属性の人達の想いが生生しく伝わってくるようなリアリティある素材が描かれています。そう感じさせるのは、その素材が描かれるテキストが光るからでしょうね。魅力的なテキストでリアリティある素材が描かれるため、一体この後これら素材がどうシナリオに取り込まれていくのか、私の期待は否応なく高まりました。なお結論だけ申し上げると凡そ期待外れでした。素材自体が良いため冷静に見れば決して悪くはないのですが、中途半端に調理されたものが生焼けのまま放棄された感が強く、プレイ後の印象は酷いものでした。

舞台設定
ファンタジー要素が最悪。このファンタジー要素というのは、方向性は問答無用で凡そ理屈なく発動する系の「剣と魔法」みたいなものよりもハンターハンターみたいな独自設定・独自ルールものが近い。この舞台設定自体への評価は後述するとして、そもそもリアリティあるキャラ設定との取り合わせはなかなか危険でしょう。現代日本を舞台としたヒューマンドラマが展開されていたはずなのに途中から突如ファンタジーに舵を切られたら、普通困惑するでしょう。ただ、ここはまだなんとか飲み込めました。そもそも公式サイトでのSTORY紹介でもこの辺りは明記されているし、それを読まずにプレイした私でも、このファンタジー設定は、魅力的なキャラ設定を生かす舞台装置でもあるのかと期待できたからです。言うなれば、この舞台装置自体がキャラ設定に対してメッセージ性を持った何らかのメタファーとして機能しそうな気配が濃厚に感じられた。
で、ここでこの舞台設定自体への評価を述べますが、最悪でした。
設定、ツッコミどころも未解明の謎も多数で、それらをろくに説明もしないまま終わるのです。
伏線回収的なドラマティック展開のため、設定が組み込まれたのは分かりましたよ。そこはまぁ確かに盛り上がらなくはないですよ。でも、設定自体に穴が空いたままで説得力に乏しいのに、その設定をフル活用した大逆転とかやられても興醒めなんですよ。しかもこのファンタジー設定、別にメッセージ性とかと何ら絡まなかったというか、特段メッセージ性自体が見当たらなかったという。じゃあ何か、このファンタジー設定は、純粋に、ドラマ性などエンタメのためだけのパーツかと。それならそれでも別にいいですけど、あまりにも安直…。
本作がただつまらないだけの作品なら、最近の私はそもそも最後までプレイせず早々に投げ出すし、当然レビューだって一文字も書きません。けれどそうじゃないんですよね…。テキストのみを取って評価しても、迸る才能はひしひしと伝わってくる。やっぱりるーすぼーいはエロゲ界を代表する非凡なライターの一人ですよ。ただの感動モノを描きたくないというのがるーすぼーいの拘りのようですし、それはそれで結構ですが、それならオリジナル設定はしっかり作り込んでくれよ…


ゲーム性:1

一本道。ゲーム性など無い。

実用性:4

ヒロイン、1人だけなんですよね。なのでHシーンも一人だけ。
これって一般的には相当尖った仕様だと思うんですが、何の偶然か、私はつい最近そういう作品をプレイ済だったので特に新鮮味も無し。

恋人との初々しくもあるラブラブHが展開されますので、そういうのが好きな人にはどうぞという感。


音楽:8

ゲームのBGMって大きく2つ、前面に出てきてプレイヤーを魅了しつつゲームの魅力をさらに引き上げるタイプと、背景に徹してプレイの妨げにはならずプレイ感を底上げするタイプに分類できると思っているんですが、本作は完全に前者。思いっきり前面に出てくるからすごい気になる。そして魅了される。作品の(というかキャラ達の)雰囲気になんだかすごく合っている気がするし、作品の求心力を否応なく高める。
…これで肝心のテキストが文句なければ、とんでもないブーストになっていたと思うんですけどねぇ…。
いや本当に、作品の完成度がきちんとしてれば、サントラも割と売れたんじゃないかなぁ。
今となっては、情感掻き立てられるBGMに、私の本作への期待がさらにブーストされてしまい一人で転んだ感もある。無念である。

ボーカル曲:3曲

キャラ:5

冒頭から、主人公とヒロインとの絆が割とガッチリ硬い系です。
ヒロインは、ほわほわとしたところも大いにあり、若干の不思議ちゃんなところもあり、非常に気立ての良い性格最高で主人公に尽くしてくれる系です。もちろん手料理も喜んでガンガン作ってくれる。

本項はあくまでヒロインキャラの魅力度合いについての項なので項違いなのですが、「長門大地」という謎の老人キャラが本作一番の見どころだと思います。(もちろん作中での役回りもキャラも声も全然違うけど)「車輪の国 向日葵の少女」の法月先生に近い。



声:男女

フルボイスです。
声に不満は一切無し。個人的には長門の声が好き。今調べたらものすごいベテランの声優さんなのですね。よく出てくれたなという。

時間:4

普通か、昨今のテキストゲーとしては少しだけ短めな程度のボリューム。

その他

システム:特に不満はなかったはず。
演出:目立った演出は特にないのですが、CGが人物も背景も相当綺麗だなと思います。

お勧め度:4

…いやこれ勧めにくいでしょう。相当なるーすファンでもない限り!
むしろるーすファン同士でプレイして、プレイ後にあーだこーだ議論するための作品であるとしか言いようがない、このテキストは!
CGは美麗だしBGMは最高だし声にも不満無しだし、るーすぼーいならではのテキストも遺憾なく発揮されている途中までは相当面白いのに、本当にどうしてこうなった!
プレイしたことを後悔する気持ちは微塵もないですが、この何ともやるせないプレイ後感、とても他所様にお勧めできるようなものではない・・・!


気に入り度:5

本当にどうしてこうなった!(2回目)

いや、最大限評価したいんですよ。良いところいっぱいあるんですよ。プレイを終えて、私の本作への愛着というか、本作を惜しむ気持ちは相当強いと思うんですよね。何度だって言いますが、ポテンシャル… と言っていいのかな、中盤までのクオリティは、相当なものがあったんですよ。これだけ人間を描けるライターが、なぜ終盤この程度しか描かずに終幕を下ろしてしまったのか。
作品を一つ完成させる困難さ、その途中で感じる苦しみというのは、クリエイターにしか分からないものだとは想像できます。だから、そこに対して一プレイヤーがどうこう口を挟めるようなものではないとは思っている一方、やっぱり、本作がこの完成度のまま世に出て、そして(アップデートやらPK版といった)テコ入れをされることもなく朽ちてしまうことを惜しむ気持ちは本当に…。
るーすぼーいが本作以降も順風満帆で活躍しているならこの気持ちもここまで強くないのでしょうが、少なくともこれを書いている時点で現実はそうではないし、現実が好転する可能性は年々低くなりますからね…。

「太陽の子」、どうなるかなぁ…。



(この作品については、ネタバレ有りのプレイ後用レビュー(*ネタバレ多数)にても触れております。)





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