穢翼のユースティア

(執筆:2011/07/17)



テーマ、メッセージ性について

本作の何がすごいって、1~4章まででの主人公のそつない万能キャラが、実は最終章 の伏線になっていたことですね。

主人公は、賢いです。状況を冷静に判断し、理性的に動くことができます。
ユーザーのほとんどはとっくに気づいていることを肝心の主人公だけが気づいていない、なんて展開は一切ありません。勘も良く、行動も機敏です。
かといって冷血漢などではなく、他人に対して思いやりのある行動をできる人間です。
まさに、主人公キャラとして理想的なキャラと言えるでしょう。

最終章で主人公の前に立ちはだかるのは、まさにそういう「そつない理性的判断」です。

たった一人の人間の苦痛と、都市の人間全員の。どちらかを犠牲にしなくてはいけないなら、どちらを犠牲にするか。(両方救うなんて選択肢は当然ありません)
誰もが前者を選ぶでしょう。
では、たった一人の人間というのが、自分の大事な人ならば?
間違いなく、やはり誰もが前者を選ぶでしょう。なぜなら、都市全員の命とは、その大事な人の命をも含むのですから。
カイムの判断は、どこまでも理性的です。
ならば、「たった一人」が「都市の一部」に変わろうと、選択が変わることなどあろうはずがない。都市の一部の人間の犠牲によって都市の住民全ての命が守られるならば、都市の一部の人間には犠牲になっていただくしかない。たとえそれが親友達であっても。理性的判断の上で、私情に流されるわけにはいかないのだから。

終盤、ルキウスに付き従うカイムの苦悩は、察するに余りあります。これまで、そうやって生きてきたのだから。常に正しい選択をして生きてきたカイムは、今回もまた正しい選択をしたに過ぎないはずなのです。
ルキウスは、徹底した合理主義者でした。圧巻だったのは、常に「多く人が助かる道を選ぶ」と宣言するところ。40人が死ぬことで60人が生き残れるならば40人を殺し、残った60人のうち20人が死ぬことで40人が生き残れるなら20人を殺し、パイを切り分けるように彼は選択を迫られる度に常に多い方を選び続けます。たとえ切り捨てられる方に誰が乗っていようとも。
この合理主義は、私にはまるで昨今の日本の国政を見ているようで考えさせられました。国体を安んじるためには、少数の犠牲はつきものである。例えば…

…この考えを否定する気はありませんが、一方でこれは国という存在が抱える根源的疾患であるような気がしてなりません。話がそれるのでこれ以上はやめておきますが。
カイムは、自身の判断に従った結果、ルキウスの正しさを認めます。そして、ルキウスに従うようになります。しかしこれは実は、カイムの正しさがルキウスの正しさに呑み込まれた瞬間でもあるのです。
カイムは、自分が付き従っていた正しさとは、実はこの完全合理主義であるということに気づいた時、ようやく自身が従うべき正しさを自省し、新たな何かを自身の中に見出します。

作中には、こんなカイムの台詞があります。
俺はずっと、自分一人で道を選ぶことが怖かった
だから、いつも正しさや妥当性を探していたんだ


彼は、正しさを捨て、代わりに他のものを信念として動くようになります。
彼が捨てた正しさとは合理性であり、それは恐らく私達プレイヤーが、行動や判断のうちの多くをその拠り所としているものではないでしょうか。

「正しい選択」とは何なのか。
本作は、そういうテーマを掲げた作品だと思っています。

王道と言えばそのとおりなのかも知れませんが、私には非常に目新しく映りました。


終盤の展開について

ティアが記憶を失って行く辺りからの怒涛の流れ、良かったですね。
ええ、ほんわかとしたちょっと守ってあげたくなるようなヒロインが一転して身に余る苦痛・苦悩を背負わされながらも必死に頑張る。KEY作品の幾つかがドンピシャですね。分かっちゃいるけどシナリオにはのめりこんでしまう悔しさ!
終盤、コレットがジークと手を組んだとか、ライターうめぇと思いました。このコレットの使いっぷりは見事。都市が崩壊していく中、それぞれのキャラ達がそれぞれの信じる何かに従い最善を尽くそうと奮闘していく結果ますます事態は混迷を窮めていくところとか、非常に好きです。各ヒロインが皆良い活躍をしていた。
カイムはこの章でだけは機転を働かすこともなくただ腐っていただけですが、上述のようにこれはやむを得ないと思います。その後の、いわば覚醒後のカイムはかっこ良かったですしね。これでこそエロゲ主人公。ラストの展開は、もう、前評判から完全に予想通りでしたが、全然問題ない。ちょっとホロッとした。ティア最高や!ティアの意識は消滅したとしても、ティアという存在は常にカイムの側に居続けるんや!アンハッピーエンドやけど、余韻の残る悪くないエンドや!
(憤慨する気持ちも、わからないわけではない)


不満点

プレイ前レビューでも書きましたけど、牢獄の描写がぬるすぎる。何が一番失望したって、カイムが普通に楽しい牢獄生活を送っていたことですね。可愛い女達、気心の知れた親友、豊富な資金、旨い料理に酒。申し分ない。ていうかどうなっとるんだ。何が「理不尽な不幸は人生につきものだ。特に、牢獄には腐るほど転がっている」だ!!お前のその言語に惹かれて予約購入までしたってのに、お前自身が理不尽な不幸とは無縁な快適生活送ってるってのはどういうことなんだ!!
過去は、確かに理不尽な不幸で溢れているでしょう。しかし、現在進行形で描かれる主人公およびその周囲の人間たちは、あまりにも呑気で楽しそうなのばかり。娼婦系は気の毒な感じでしたが、きっちりヒロインからは外され、漏れなく脇役にされてるしね。結局本作は、脇役だけが理不尽な不幸を背負わされ、ヒロインおよび主人公は主役バリアによって不幸を背負ってない設定になってるのですよね。
もちろん、シナリオ展開上ふりかかる不幸はありますよ。しかし、「受け容れ、共に生きるしかない理不尽な現実」とは無縁です。ちゃんと説明できてるか怪しいですが、この差は大きい。

本作の設定は、その気になれば物語をいくらでも凄惨に、残酷にできる設定だと思うのです。それを一切やらず、最終章までの計4章で「いつもの八月」をやり通したのは、八月ファンは評価するでしょうが私には失望ポイントでした。
ちょっと話を大きくしますが、本作をわざわざエロゲでやる必要ってあったのでしょうか。アニメでもギャルゲーでもいいじゃない。
もはや古い意見になったと思いますが、エロゲならではの魅力って、1.エロシーン有、2.表現描写のリミッター解除、3.大人にしか通じないor大人にこそ通じる難解なメッセージ性、の3点だと、私は今も信じているのです。本作って、エロシーンもシナリオ展開上必要ないし、今すぐアニメ化できるくらい(というかメディアミックスが最初から想定されてる系の昨今の鼻持ちならないエロゲ並に)表現描写はゆるゆるだし。唯一、メッセージ性を盛り込んだのは高く評価してますが、このメッセージ性は牢獄の不条理さとかとは無縁だし。
私にしてみれば、エロゲである必要が全く感じられない。大衆ウケする作品作りがしたいならわざわざエロゲ業界で出さなくていいと思うし、エロゲユーザーもこういう作品ばかり楽しみたいなら普通に小説とか映画とか読み(観)漁った方が遙かに良質なものに触れられると思うし。反感かいまくりなこと言ってるのは自分でも分かりますが、正直なところそう思うのです。

結局、私が期待したのも「この設定をいかに活かした作品にするのか」というところで、だからこそ主人公の台詞にも並々ならぬ期待を寄せたわけだし、えぐい描写も心磨り減るような描写も上等で臨んでみたわけですが、やはり八月、そんなものなどあるわけがなかった。はい、すみません。八月さんにそんなものを少しでも期待した私が悪いんですよね。でもそれならそういうのを期待させるような紹介サイト作るなよ!!!!

本作に対する評価は、プレイ前レビューでしてきたとおりのものです。しかし私の中にある小さなしこり、気に入り度マイナス2点分に相当する不満・鬱屈としたやるせなさは、このあたりにあります。
私の憂さ晴らしにお付き合いいただきありがとうございます。



その他

実は断片的にプレイ日記つけてたのですが、2章途中くらいで飽きてやめました。日記過去ログに掲載されてますが、探して見るほどのものでもないんで。
ただ、やっぱりプレイ日記ってつけるに越したことないと思います。プレイ時の生の感想って、やはり貴重です。プレイ後は色々忘れてるし、色々と記憶補正入る気するし。でも面倒くさい。

で、そんなプレイ日記のおかげで、テキストも本作はなかなか優れていたと覚えていることができるのです。味があるテキストというわけではないですが、要所要所でキレがあって良いですね。うまいなぁと思わされたことも何度か。シーン描写方法というよりは、キャラの動かし方方面で。

最後に、各キャラについて。いつもどおり、好みのヒロインほど後ろ。
フィオネ: 堅物キャラが見せる恥じらい、というのが売りなのでしょう。私にはあまりヒットせず。
ティア: 良い子ですねー。でもこれ系のキャラで最強はずっと観鈴ちんだから。(まさに老害!!)
エリス: 色っぽいし可愛いし主人公に対して猛烈アタックだし超主人公依存だし、私好みのキャラであるのは間違いない。しかし一方でその他の人間に対する冷たい対応を見ていたら、リアルでいたら嫌いになってること間違いなし、私が最も嫌いな「性格の悪い美人」タイプなのでなんともコメントに窮する。とりあえずエリスルートでのヤンデレっぷりは非常に良かったです。あの章のやんわりとしながらも張り詰めた極限状態的な雰囲気がかなり好き。
リシア: 消去法でリシアという。ファンに殴られても仕方ないこの状況。でも大丈夫、私ロリキャラ大好きだから。大きなお友達だから。リシアは、メイド時の笑顔に魅せられましたね。正直、偉そうな口調のロリキャラというのは(世間ウケはいいようですが)あまり好きではないものの、でもやはりロリだから許すという、そういう心境。素直でひねてないのもいいですね。強がっているけど主人公にべったりなところとか。うんいいキャラだ。こういうのがいつもの八月というやつなのでしょうか。
あ、コレット忘れてた。ティアとエリスの間くらいかな。コレットは、あれ。澄ました声と、聖女コスがエロいです。頑固なようでいて実は柔軟な思考もできる彼女のキャラも結構好きなのですが、私の中ではエロさが何気に全キャラ一でした。「穢翼のユースティア凌辱side」とか出たらコレットのために買うかも知れないですね。ちょっと問題発言が過ぎる気がするのでそろそろ終わります。お見苦しい記述、失礼しました。




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 いただいたコメントには後日日記にてありがたくレスさせていただいております。


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