Phantom INTEGRATION

(執筆:2009/01/13)



メーカー

NitroPlus
(虚淵玄・下倉バイオなど看板ライターがいる、硬派なエロゲメーカー。銃器に拘り有。TYPE-MOONと仲が良い)



属性

発売時期:2004年9月(オリジナルは2000年2月)
ジャンル:ADV
用途:読み物
舞台:主に米国
顕著な属性:炉利
プレイのきっかけ:友人の超お勧めだったので。(プレイ前の期待得点…8点)
プレイ進捗状況:イベントコンプ。CG等一部未回収。



テキスト:7

あらすじ:気がついた時んは既に主人公は自身に関する記憶を消されており、彼は暗殺者として養成されることになった。指導者は、彼と同じく記憶を消された少女。既に暗殺者として完成した少女を、裏の世界の人間は畏敬を込めて「ファントム」と呼んでいた。

救いのない境遇を生き抜く少年少女の物語です。
生き残るためには、"自分"を捨て人殺しの技術を身につけるしかない。裏組織にがんじがらめに縛られた身なので、逃げることすらできない。そんな主人公が、自らの運命に抗いつつも翻弄されます。
テキストが良いですね。簡潔で効果的。無駄のない言葉運びで、情景・心情を巧みに描写します。
事実だけを述べるのとは全然違う。冗長とは程遠い文章ながら、そこに描かれる主人公達の内心はとてもドラマティックで、思わず共感してしまいます。

シナリオは、冷酷な舞台設定だけあってなかなかシビアです。息もつかせぬ展開。ただ、私個人としてはむしろ、ライターがやりたい場面設定に向けて舞台全体が着実に動いているような印象を受けました。ライターの意図が透けて見えるようなシーンも幾つかありました。
で、その「ライターがやりたい場面」というのがまさに本作のプロットでありコンセプトなのでしょう。「おもしろきこともなき世をおもしろく」と詠んだ高杉晋作ではないですが、救いのない世界に救いを。ライターの両刀で鮮やかに調理された本作、エンターテイメントとしては一級品。メッセージ性等は特にないと思います。

私は少々期待しすぎたせいか中盤を特に感情の起伏もなく淡々と終わらせてしまったので7点止まりとさせていただきますが、終盤は非常に良かった。



ゲーム性:2

選択肢ですが、そう少ないわけでもない選択肢、その一つ一つがその後の展開に少なからず影響を与え得ます。なので、選択肢を選ぶ楽しさはありますね。
ただ、少々選択肢が多いのとシステムの問題とで、この選択肢分岐が作品を楽しむ上で マイナスに働いていたことも少なからずあったのは残念です。

あと、推奨攻略順があるように感じました。
お勧めは、愚者の館さんの攻略ページ。この順番でプレイするのが一番いいんじゃないかなぁと。ただ、私攻略サイトはネタバレする可能性大だからあまり使いたくないのですが、同じくネタバレ回避したい人は、「とりあえずクロウディア、続いてキャル」とだけ覚えておいてはいかがでしょう。



実用性:3

2000年初出と聞いて納得の分量。
おざなりというわけではないですが、短いです。実用目的とは縁遠い、映画のキスシーン程度の存在意義。



音楽:6

BGM全般、あまり印象に残ってませんが、悪くなかったと思います。
個人的にはOP曲がお気に入り。

ボーカル曲:3曲



キャラ:8

主人公:名前変更可,人間性を無くさないまま、一流暗殺者となる。
アイン:"自身"を殺し冷徹に任務を完了させる一流暗殺者。
クロウディア:有能な、マフィアの幹部の一人。
キャル:スラム街の少女。本人に自覚はないが天才肌。

ほぼ一貫して硬派な作品ですので、いわゆる萌えという単語とは遠い本作。しかしキャラは魅力的。
多くの人は、「アインがカッコいい」というんでしょう。ええそうでしょうとも。
でも、敢えて言おう、キャル最高。

キャル最高。





声:無

声無しです。
私は声無しでも全く問題ないタイプなのですが、本作を終えた今では、キャルの声有版も見てみたいかもと思ってしまう。(PS2版は声有だとか)



時間:3

標準的ADVゲーよりもやや短い印象ですね。
しかし、短すぎるという感じは全くしませんでした。描きたいものを描き切った上での必要十分な長さということではないでしょうか。



その他

システム:起動時に時間がかかる、EDスキップできないのが大きく減点。攻略難易度が高めなので、EDスキップも不可なら起動にも時間かかるとなるとマジメに自力攻略する気が失せます。あと、デモベの時もそうでしたが、バックログから本文に戻るだけで2アクション必要なのもどうかと。
演出:素晴らしいです。別に画面効果がどうとか立ち絵が動くとかそういうことではないです。静止画像のみで魅せる演出ですが、鳥肌ものです。ライター自ら演出に携わっているだけあって、実に良い。決して目立たない活躍ですが、効果的にプレイヤーを作品世界に惹きこみます。
あと、EXTRAモードで銃器の紹介あります。一応エロゲなんですよ、これ。



お勧め度:8

ギャグも無ければ萌えもない。燃えゲーかというとそうでもない。しかしキャラは魅力的で、戦闘シーンには興奮し、作品に漂う雰囲気にも気がつくとハマっている。そんな感じの作品です。

2000年発売だったんですね。そんな前だったとは…。
2000年というと、AIR発売の年です。
2000年はAIRと本作がエロゲ業界に旋風を巻き起こしてたんだなぁ…。
結局、本作のような硬派エロゲは昨今ほとんど発売されることもなく、最近では萌えゲーばかり。この作品からエロゲに入ったという諸兄は、もうとっくにこの業界に愛想つかしてる頃なのでしょうか。
そう、とても硬派です。エロゲーマー以外のプレイにも十分耐えうる。すなわち、エロゲで出さなくても全然問題なかったであろう本作、敢えてエロゲとして発売したニトロには感謝の言葉を述べるべきなのかも知れません。一シリアス系エロゲ好きとして。恐らく、その後のテキスト系エロゲーに少なからず影響を与えていると思うのです、本作は。
ただ、これをプレイしハマってしまうと、他の(特に昨今の)エロゲに唾したくなるかも知れませんね。この業界における希少価値も相合わさって、中毒症状に似た症状が出る。

テキスト項は7点しかつけてませんが、演出も良くキャラも良く、シリアスでシビアで硝煙の匂いが離れない世界にどっぷり惹き込まれることは間違い無しです。本作は2000年発売のオリジナルに少々手を加えたものですが、そのおかげか、悪い意味での古さはほとんど感じませんでした。
現在、ミドルプライスでリメイク版が販売中ですので、手が届きやすいのも良いですね。リメイク版と聞くと警戒してしまうかも知れませんが、ライター自ら一部加筆し、CGを追加・修正したものです。私はこっちのリメイク版(INTEGRATION)プレイして大正解だったと思ってます。




気に入り度:7

正直な感想を言えば、途中までは期待はずれでした。
非常に面白かった終盤ではありますが、もう少し磨くことはできるんじゃないかな、とも思います。非常に面白かっただけに、さらに一歩を求めてしまう。
さらにもう一つ言うと、「これが虚淵(ライター)の結論か」と思うと、一抹の物足りなさも感じないではない。
最後にボリュームですかね。満足感という意味で。
以上4つの点により、7点止まりです。
が、プレイ後に後を引く余韻は本当に久々なもので、何とも言えない気分です。
そういう意味でも、エンターテイメントとしては素晴らしい出来なのでしょう。
また、私は銃器とか全然興味ないし拳銃の撃ち合いにも特にそそられない人間ですが、そんな私でも本作は楽しかったし、銃器に宿る魅力というものも何となく分かった気もしました。

この虚淵ワールドにもっと浸りたいと思う。そう思わせてくれる貴重なライターさんの一人でしょう。

私の印象ですが、本作は、ライターが一番描きたいところに向けて全てが無機的に動いていく感じ。だからこそ、ライターの魅せ場(一つの場面とか小さいものだけでなく)は本当に魅力的なのだけど、そこを魅せるために、切り捨てられる部分もある。メッセージ性なんかはそもそも眼中にないでしょうし、キャラそれぞれもまた、プレイヤーがいくら感情移入してようが、ライターが必要と思えば容赦なくその運命に沈みます。
その辺の是非は、プレイヤー個々人の判断に委ねられるでしょうね。
私にとって、それがプラスでもあり、マイナスでもありました。



(この作品については、プレイ後レビューでも触れております。)





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