魔法使いの夜 -WITCH ON THE HOLY NIGHT-

(執筆:2012/07/15,2012/08/05)

メーカー

TYPE−MOON
(那須きのこの作品を世に売り出すために全て機能しているようなブランド。ただし昨今星空めておなど他ライター作品にも手を出し始めたような。信者達の渇望と裏腹に、とにかく完全新作が出ない。)

属性

発売時期:2012年4月
ジャンル:ADV
用途:読み物、観賞(演出等の)
舞台:1980年代後半、日本の地方都市。
顕著な性属性:
プレイのきっかけ:良質なテキストゲーがプレイしたくて。きのこ好きなので。(プレイ前の期待得点…7点)
プレイ進捗状況:コンプ

テキスト:8

あらすじ:1980年代後半の地方都市・三咲町。この町では、「坂の上にあるお屋敷には、2人の魔女が住んでいる」という噂があった。田舎から三咲町に引越して来た男子高校生・静希草十郎は、転校先の生徒会長・蒼崎青子と孤高の美少女・久遠寺有珠と出会う。しかし、実はこの2人こそ例の屋敷に住む魔女だったのだ。そんな3人が、ひょんな事から屋敷で共同生活を始めることになる。(wikipediaより抜粋)

さすがきのこだった。
那須きのこらしい、良くも悪くも癖のあるテキストは相変わらず。鼻につく人には鼻につくでしょうし、生暖かく見守れる人は見守れるでしょう。
しかしそれだけでない、きのこならではの、一般エロゲテキストではなかなか味わえないような、良質な文章運び。きのこならではの世界観。そういうのも詰まっていて、「テキストもの」として飽きさせませんでした。
問題はシナリオでしょうか。wikipedia読む限り「魔法使いの夜」とは本来三部作であり、本作はその中の一部目に該当するらしいのですが、その情報はプレイした際の実感に実に合致します。「三部作のうち一部」と言われてようやくピンと来る、「つまんないわけではないけれど今ひとつ起伏や盛り上がりに乏しいシナリオ」。本作のシナリオを一言で語るとそうなります。なんか、序章というか、登場人物たちの説明で割と紙面が割かれてるというか、本格的なシナリオ展開は実はこの後にまだ控えてそうというか。
本作の欠点はそこですね。きのこワールドが設定に設定を重ねたゴッテゴテの設定ワールドであることはきのこ作品プレイ済の方ならご存知でしょうし、そんなきのこ作品もまた設定まみれのきのこワールドに関する描写に少なからずテキストが割かれるのもご存知でしょうが、本作も相変わらずそんな感じでした。特にメインヒロイン青子よりも有珠関係で。

ゲーム性:3

本編は基本的に選択肢無しの一直線シナリオなので、ゲーム性もクソもありません。
が、おまけ要素がちょっとだけあって、それが割とゲーム性あったと言えばあった。面倒でもありますが。私は楽しめました。

実用性:2

使えません。
某キャラの太ももにハァハァするくらいが関の山です。

音楽:7

これまでの型月音楽スタッフに加え新メンバー投入ということで、型月らしさも損なわれず、それでいて新風も感じさせる、良い感じだったと思いますよ。メチャクチャいいわけではないですが、サントラが欲しくなるくらいには良かったです。
個人的には、ボーカル曲がその使われ方も含めて特に気に入りました。

ボーカル曲:1曲

キャラ:5

主人公:"草十郎"(名前変更不可),山育ちで街での生活のすべてに戸惑いながらもなんとか順応していく。育ち故か、思考の仕方が常人とは割と異なるが、一方で良識も持ち合わせているため破天荒な他キャラに振り回されるツッコミキャラになることも。
青子:敏腕生徒会長にして魔術師見習い。有珠の屋敷に有珠と2人で住んでいる。自分の決めた生き方に一点の迷いもなく突き進める強さを持つが、一方で魔術師には不適格なほど情にも篤い。どんな時でも自分なりの筋を通そうとする。
有珠:魔術師の中でも極めて異端な魔術を使う、天才魔術師少女。いつも寡黙で無表情。自分の屋敷や英国式の自分の生活スタイルに並々ならぬ思い入れがあり、それに立ち入られること、それを変えることを強く嫌う。

ヒロイン達に対して並々ならぬ愛情を感じたりは、残念ながらしないと思います。キャラとしてはしっかり立ってますが(きのこ他作品と比較しなければ。)、「○○たんハァハァ」的な柔いキャラ達ではないので。この辺りも、きのこ作品では相変わらずですね。
完全に、脇役達まで含めいつもどおりのきのこヒロイン達です。特に青子。

声:無

このご時世に無声作品ですよ!
よくやった型月、もっとやれ!硬派なVNスタイルを貫いてくれ!
(とか言ってたら後日PS2版とか出てフルボイスだったりするんだこれが…)

時間:4

ルート分岐も無しの完全1本道ですし、昨今の標準的ADVよりは若干ボリューム少ないかも知れませんが、それでも十分な分量はあったと思います。

その他

システム:さすがの型月、ほしい機能は全部あったんじゃないですかね。特にテキスト進行周り。ショートカットキーまでありましたが、これは私のような素人ユーザーは使う人少ない気がする。どうなんだろう。

演出:演出については、うーん、2012年のエロゲ業界の本気というか、そういうレベルですね。ageみたいに動きまくったりはしませんが、多彩なカットイン、画面演出が駆使されています。それが逆にマイナスに働いているような印象を受けたところも少しだけあったのですが、概ね良かった。
しかし個人的に一番評価したいのは、音楽回想モードですね。これが実に、痒いところまで手の届く作り。サントラ欲しいと上に書きましたし実際今も欲しいのですが、ゲームさえ起動してしまえばそれがサントラになるレベル。各曲に作曲家名が書かれているのもいいのですが、特に気に入ったのが背景がスライドショーのように変わることですね。もちろん、本編で使用された背景CGです。下に続く。

背景:これがまぁ、というかこれこそがというべきか、型月の本気というか、とにかくすごいクオリティ。作品プレイ中はあまり気づかなかったりもするのですが、上述の音楽回想モードを起動しながら眺める背景(あるいはCG)は非常に綺麗です。本作を語る上で特筆すべき点の一つと言っていいでしょう。

お勧め度:7

癖もあるけど良質なきのこテキストがある、美麗なCGもある、豊富なCG演出も盛り込まれている、良質な音楽もある、…こう来たら、やっぱりお勧めせざるを得ないですよ。 言い方を変えると、この辺りを楽しむという目的をもってプレイするならば文句無しにお勧めです。
ただ、「息もつかせぬ怒涛の」的なシナリオ展開を期待すると恐らくその期待は裏切られるでしょう。そういうのが全くないわけではないですが、そういうのメインではありません。
エンターテインメントものとして上質なのは間違いないのですが、「熱中してのめり込む」系ではなく、疲れた時などに「じっくりと、あるいはのんびりと、腰を据えて堪能する」系の作品ですね。

シナリオゲーとしては若干微妙。しかしながらテキストは流石のきのこだった。きのこファン、良質テキストゲー好きなら決してハズレではない作品だと思います。
あと、蒼崎つながりということで、「空の境界」出演の橙子さんも登場しますので、私を含む全国推定1000万人の橙子さんファンは即買いでしょう。「空の境界」より昔の話ということでキャラがなんか若いけど!
…って書くと内輪ネタっぽいですが、型月作品未プレイでも問題ない作りだと思います。くどいくらいに色々説明してますし。ただ、型月作品の世界観って全部同じですから、本作プレイの前後どちらでもいいので、他作品にも触れればより楽しめるかもしれないなと思います。


気に入り度:7

きのこ作品って、いつもそうですが、プレイ後「この世界にもっと浸っていたい」と思わせてくれますよね。そして、「口はばったいが、ハッピーエンドなら俺に任せておけ、玄さん」(byきのこ)ではないですが、読後感ならぬ「プレイ後感」がすごく良い。

本作は、ここ数年エロゲテキストゲーで満足感をほとんど感じていなかった私をして久々に充足感を与えてくれた作品でした。いやぁ良かった。
・・・エロゲじゃないんですけどね。



<(この作品については、リアルタイムプレイ日記をつけておりました。ネタバレ有注意)

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