(執筆:2008/07/05-08, 微加筆:2009.06/21)
メーカー
あかべぇそふとつぅ
(原画家の有葉を中心とし、ライターるーすぼーいを抱え込んで近年成長中のブランド。本拠地福岡。)
属性
発売時期:2008年5月
ジャンル:ADV
用途:読み物(頭脳戦+ヒューマン)
舞台:現代の街・学園
顕著な属性:無し
プレイのきっかけ:ライターるーすぼーいのファンだから(プレイ前の期待得点…7点)
テキスト:7
あらすじ:主人公は、学園生でありながら「カイシャ」で敏腕を発揮し、高級マンションに一人暮らしする毎日を送っていた。ある日、学園に「宇佐美ハル」と名乗る、変わった少女が転入してきた。
ハルは、「魔王」を追ってこの街にやってきた「勇者」であると名乗る。この街を舞台に、宿願の野望のため暗躍する魔王。それを追うハル。魔王と勇者との闘いの火蓋が切って落とされた。
まずテキストですが、さすがのるーすぼーい。緩急のつきっぷりが半端ない。日常シーンは常にるーす節の脱力系ギャグが炸裂しっぱなしで飽きませんし、そこから一転シリアスシーンに入ると、劇的にテキストが引き締まり、物語への求心力も極めて強いものになる。このように、基本的には実に良い出来です。ただ、極一部息切れを感じるところもありました。
続いてシナリオの出来ですが、これも実に良く出来ているのではないでしょうか。メインシナリオ、サブシナリオと、幾つかのルートがありますが、メインルートの出来はもちろん、サブルートも多くが「凡作」ではなく「良作」と呼べる良い出来。これは驚いた。ひとつだけ「凡作かな」と思うルートもありましたが、これは特に前半がテキスト面で健闘していたので、概して、どれも平均以上と言えるものだったと思います。
問題はここからです。まずプロット。物語の大きな流れですが、これは、正直あまり良いものではない。個々のシナリオは良いのですが、いまひとつ物語全体のまとまり、そして物語全体への求心力が乏しいと感じました。伏線が散らばりすぎており、メインストーリーが希薄なのですね。物語の本当の主人公は、主人公の京介ではなくハルであると捉えるべきだと私は思うのですが、京介もハルも伏線を隠し持っているため、誰に視点を当てて読み進めても、いまひとつ物語にのめり込めない。この2人の目的がちっともはっきりしないのです。その辺の原因は、今から書くコンセプトにあると思います。
コンセプト。おそらく、るーすがこの「G線上の魔王」を企画した、最も初期の段階から決定していたであろう本作品最大の伏線、これが本作品の足を徹底的に引っ張った。私はそう考えています。
詳しくは書きませんが、本作は、挑戦作ではあるけれど、それほど斬新と感じるわけでもなく、しかもそのデメリットがきっちりと遺憾なく発揮されてしまった失敗作だと思います。基本的には駄作なのです。 しかし、そこは凄腕ライターるーす。延期を重ね、自らの手腕を最大限発揮することで、大枠では駄作である本作の細部一つ一つを磨きあげていき、徹底的に良作へと加工していった。結果としてかなり面白い作品に仕上がったのは、お見事としか言いようがない。しかしだからこそ、この根本の部分が惜しまれる。
今書いたのとはまた別に、もう一つコンセプトの失敗があります。るーすをして一大人気ライターにしている彼の作品の魅力は大きく3つあって、一つはそのるーす節テキストの面白さ。二つ目がプレイヤーの誘導の巧さ。そして三つ目が感動系ストーリーのうまさとメッセージ性の深さです。彼は、本作で二つ目に重点を置きすぎた。それは彼にとって本望なのかも知れませんし、それをもって「失敗」となじるのは見当外れかも知れません。そもそも本作を車輪と比較することすら、おかしいのかも知れません。しかし、今挙げた三つ目が、本作では霞んでしまっていたのが、私個人としては少々残念。今回は、SFの世界ではなく日本を舞台にしている以上、車輪よりも説得力を出せたはずなのですが、その辺は今ひとつ重視されていなかったのが残念。
2009/06/21追記:訂正。車輪と同じでした。またも、メッセージは分かりにくくシナリオの各所に埋没していました。私が読み解いた本作のメッセージ性は、車輪と実に近いものであり、あるいは一つ要素を足したものであり、そしてこの一要素はちょっと若者(10代後半-20代前半くらい)には、理解できても受け容れられにくいものである気がする。
この絶妙なメッセージ性こそが私がるーすをして高評価する大きなポイントの一つなので、私としては本作は幾ら大筋として駄作であろうが細部に未完成部分が散見されようが基本的にエンターテイメントとしてまぁまぁ楽しかったし、このメッセージを描けていた以上評価せざるを得ない。
そういう、車輪同様、理解されにくいーいテキストだと思います。
車輪との違いは、「感動した!以上。」で終わってすっきりしにくい点。車輪での「感動した!」はメッセージに直結ですが本作での「感動した!」はメッセージにかなり繋がりにくい。自然、ユーザーからの平均評価も車輪未満になりますね。
ゲーム性:4
基本的に、ヒロインの好感度上げる選択肢ですね。
あまり選択にときめいたりは無し。
実用性:4
有葉絵にベテラン声優達と、こちらも手堅い出来栄え。王道エロゲ的ラブシーンが基本です。あの、処女が濃厚なフェラして初Hで気持ち良くなってきて絶頂するやつです。はい。
一部イラマチオチックな鬼畜なフェラシーンがあり、燃える人は燃えるかも。
音楽:6
私クラシックには疎いのであまりよくわかりませんが、「G線上のアリア」を始め、クラシックまたはそのアレンジと思われる曲が主だった印象。けれど締まるところは締まる曲、気の抜けるところは気の抜ける曲がしっかりとあり、メリハリは利いてます。
車輪よりもキャッチーさが消え、堅実な印象。曲の使い所は文句無しです。
ボーカル曲:3曲
キャラ:6
主人公:京介(名前変更不可),明るくひょうきんな学園での顔と、冷徹に仕事をする裏の顔とを意識的に使い分けている。
ハル:魔王を探し街にやってきた長髪の少女。普段は珍妙な性格。本気を出すと別人のように鋭い表情になる。頭脳明晰。
椿姫:学園の友達。おっとりとして純朴な、そして非常に心根の優しい少女。
花音:主人公の義妹。フィギュアスケート一筋に生きてきた実力派だけど、マイペースでのんきなノリ。
水羽:主人公に対し冷たくあたる、クールな少女。学園長の娘で金持ち。
るーすは、実はギャルゲーライターとしての腕も確かで、普段はるーす節でどっかんどっかんさせつつ、ここぞというシーンでは私達プレイヤーのハートをがっちり引き込むから見事ですね。
ただ、破壊力には少々乏しいような。作品のコンセプトの弊害はこんなところにも。
声:男女
男女フルボイス。
皆さん良かったです。個人的には花音の声が脳にクラクラきましたが、やっぱ上手いなぁと感心させられたのはハルでしたね。
主人公の男友達も、最初は少々違和感感じたものの、慣れると実に良かったです。
時間:5
結構ボリュームありました。標準〜長めのADVレベル。何より評価したいのが、本ルートは本ルートでしっかりしているのですが、各個別ルートも質量ともに良かった点ですね。Hしてハッピーエンドで終了、というのとは訳が違いました。
雑記
システム面での不満は、一度ゲームを終了すると、起動した時バックログが完全に消えていることですね。このゲームに限った話ではないですが、「さて、どこまで進めてたっけ?」ってのを思い出す時に、バックログ保存してあるのとないのとでは快適度が違うので。まぁつまらないことですが。
逆に、これもこの作品に限った話ではないですが好印象なのが、キャラの音声が、次の文章(音声無し)に進んでも途切れず流れたままになるシステム。これは個人的にポイント高く、「キャラ音声を全部聴く」と「テンポよくゲームを進める」を両立できます。
演出としては、カットインがあったり、一部CGヒロインの目がうるうるしていたり、「時間があったから頑張ってみました」ってのが伝わってくる感じでした。まぁ良かったと思います。
お勧め度:7
安心してお勧めできるクオリティなんじゃないかなぁと思います。総合的に見ると、欠点も目につくのだけど、それでもやはり全体としては十分に合格ライン超えているかと。ただ逆に、これといって特に強調できる点があるわけでもないのが、なんとも。
一つ言えるのは、感情の波は車輪の方が圧倒的にあったのですが、車輪では結局微塵も泣かなかった私が本作では1シーンで涙。感動シーンの演出は上手くなっている気がします。
私はこのライターの作品を過去4作中3作プレイ済みですので、いい加減「このライターならこういう展開」というのが何となく読めてしまったというのもあるので、このライター作品は初めて、という方はもっと楽しめると思います。
気に入り度:8
なんといっても、作品全体としての求心力が極めて弱い、というのが、大きな問題点ではないでしょうか。本作では、魔王とハルとの対決が物語の中心になりますが、魔王が何か仕掛けてこないと主人公サイドは日常を過ごす以外することもありませんからね。結果、物語は細切れになってしまい、今ひとつ一つの作品としての魅力に乏しいことになったような。
しかし、駄作凡作判定するにはあまりにも酷だと思うほど出来がいい、テキストと小シナリオ。あの名作車輪(当サイトでは気に入り度10点つけています)と比較するからいけないんであって、単体で見れば十分に平均以上のクオリティです。
なにより、もうテキスト項で散々述べましたが、今回もしっかりるーすのメッセージが埋伏されており、そのメッセージに強く共感する昨今ですので、私内評価はとても高いです。
プレイ後数ヶ月してじわじわきました、これは。プレイ日記つけてて良かった。
(この作品については、リアルタイムプレイ日記をつけていました。ご閲覧はトップページ「日記」項から。)
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