波間の国のファウスト

(執筆:2012/10/15)

メーカー

bitterdrop
(本作が処女作。)

属性

発売時期:2012年6月
ジャンル:ADV
用途:読み物
舞台:近未来日本の経済特区
顕著な性属性:不明
プレイのきっかけ:知的読み物系がプレイしたくて(プレイ前の期待得点…6点)
プレイ進捗状況:本編のみクリア(シーン回収未完)

テキスト:5

あらすじ:数年ぶりに「直島経済特区」へと帰って来た主人公「結城律也」の目的は、この特区最大のファンド「クロノス」のマネージャー(通称「ハゲタカ」)の次期候補者選抜試験を受けること。特区にはかつて置き去りにした仲間達がいる。密かな覚悟を胸に秘め、金が全てのこの経済特区で律也が手にするものは。

パッケージには確か「ギャルゲー×経済バトル!」とか書いてあったと思いますが、レビューをするにあたってまずこれだけは述べておきたい。
私、経済とかさっぱり分かんないです。
で、そんな素人の私がプレイしたらどんな感想が得られるかというのも楽しみで、本作の購入に踏み切りました。結果…
…うん…。よく分かんなかったです…。

字面のだいたいの意味くらいは察することは出来ますよ。(多分出来ていると思う 出来ているんじゃないかな) が、それぞれの用語に対してほぼ解説等0のままシナリオは進みますので、プレイヤーにも最低限の基礎知識は求められる作品なのでしょう。
で、その最低限の基礎知識すら怪しい私がプレイした感想なので恐縮ですが、
「なんかうまいことシナリオは進んでるみたいだけど…。なんか展開にリアリティ感じない…。」
これ。
シナリオは、マネーゲームを中心に動いているようです。投資中心なのかな。資金を調達し、何かを買い、それを売る。そういう投資競争と、主人公達の人間模様とを絡め合わせてあるわけなのですが…。
まずマネーゲームの方は、基礎知識云々の問題により具体的にどこがリアリティ無いとかどこがおかしいとかは言えませんが、「そんな展開になるんかほんとに…」「そんな戦略で大丈夫なのかよ」みたいな感想を割と感じました。これが結構痛かった。
普通、見せ場のシーンって、
キャラ達「うわあああもうだめだあああああ」
悪役「フッフッフ どうしようもあるまい」
プレイヤー「一体どうなってしまうのか!?」
主人公「ちょっと待ったぁー!」
キャラ達&プレイヤー「!?!?」
主人公「これこれこうするとこうなって、はい解決!!」
悪役「なんだとぉ!?そんなばかな!」
プレイヤー「うおおおおお!!」
ってなるわけですが、なにせその解決法がほんとにそれでいいのかどうもよく分からんもんだから
主人公「これこれこうするとこうなって、はい解決!!」
悪役「なんだとぉ!?そんなばかな!」
私「??あ、そうなの…?」

↑こうなった。
私みたいなド素人は、あまり色々考えずにプレイした方が良かったのかも知れないですね。でもインテリゲームで「あまり色々考えずに」って、ねぇ…。

で、もう一方。人間模様の描写は、「シナリオにキャラが踊らされてるなぁ…」と印象。なんか、予定調和を眺めてるような気分。いやはっきり言いましょう。序盤の時点で薄々想像される展開となんら食い違うことなく最後までいった。
いやね、それはそれで構わないといえば構わないんです。途中経過が楽しければ。ですが、途中経過も、「踊らされてるなぁ…」という感想なので、なんとも…。

真面目に作ってあるのはよく分かりますが、力量不足をひしひしと感じた。

あと、るーすぼーいの「車輪」にメチャクチャ影響受けてませんか。特に序盤。文体がまんま劣化るーすだったのだけど。そしてシナリオコンセプトもるーすのノリそのまま。しかし劣化るーすと申し上げたとおり、プレイヤーの感情操作テクが全然追いついてない。印象としてはリトバスの非麻枝シナリオレベル(誰と誰とは言いません)。

リトバスの某シナリオに比べれば、まだ面白かったです。なんだかんだ言って経済バトルものというのは普段見ないようなジャンルですし、新鮮ですよね。なので、そういう意味では楽しめました。シナリオでの大小の致命的ミスとかも見受けられず。が、やはり色々と力不足を感じました。

ゲーム性:3

選択肢無しの一本道です。

実用性:4

すべてのHシーンをまだ解放してないので、見た限りの感想ですが、意外と頑張ってたかなという感想。ジャンルがジャンルですしシーンの量自体はたいしたことありませんが、それでもまじめに作ってあったとおもいます。ほっこりする路線で。

音楽:4

OP,ED曲ともにあり。
BGMは、まぁ悪くはなかったかな程度。

ボーカル曲:2曲

キャラ:5

主人公:「結城律也」(名前変更不可)。経済特区育ち、その後ロンドンの名門ファンド「ストラスバーグ」で敏腕投資家として実力やコネを蓄え、特区へと戻る。頭脳明晰だが熱い心や軽いノリも失ってない、完璧超人系の、換言すると「車輪」の主人公を薄くしたようなキャラ。
白亜:幼馴染。現「ハゲタカ」。特区経済を牛耳る一人。怜悧かつ優雅な性格。
つぐみ:幼馴染。現在今川焼き屋の社長。ほわほわとしたキャラ。
凪:幼馴染。現在金融屋の社長。非常に男勝りの性格で口も悪い。

萌え的なものは控えめ。キャラとしては凪が面白いですかね。ヒロインとして良い感じなのは白亜。まぁほどほどであり無難であり王道であり。

声:男女

主要キャラのみフルボイス。
声が一切無いキャラもいれば、立ち絵はなくても声だけはあるサブキャラもいます。
元銀行の頭取キャラが似非関西弁を使いまくるのですが、それはご愛嬌で別に全然構わないのですが、その声優さんに他のモブキャラの声あてさせちゃダメ!ただでさえ目立ちまくる声なんだから!

時間:3

すぐ終わるすぐ終わると聞いていたからすぐ終わるかと思ったらほどほどにボリュームを感じました。20時間はプレイしたような気がする。裏を返せばその程度で終わります。

その他

システム:無難なシステム。オートモードは一部優良ブランドを除きどこでもそうですが使いにくいですね。特に本作のように、地の文で時々大量の文字が並ぶような作品では。
演出:key系的なノリの演出あり。あれすっぽ抜けすると寒いからシナリオの出来栄えによほど自信無い限りやめたほうがいいですよ。せめてクリックでテキスト先送りできるなら良かった。
その他:ここまで言うのは重箱の隅状態ですが、2,3箇所ほど?テキストや台詞にミスがありましたね。印象的だったのはヒロインの台詞なのに主人公の台詞になってしまってて声もないところ。

お勧め度:5

珍しいジャンルのものですし、気になったのならとりあえず触ってみてもいいのではないでしょうか。酷い出来栄えってことはないと思います。低予算なりにしっかり作ったという印象。
ただ、積極的にプッシュできる魅力も特に見出だせなかったので、あまりお勧めする気もありません。


気に入り度:5

シナリオ項をご覧いただければお分かりでしょうが、特に感情を振り乱されることもなく割と淡々と最後まで終わらせてしまったので、お気に入り作品とは程遠いです。本作のみを評価するなら、「意欲作、だが凡作」、この程度でしょう。
が、この「意欲作」という点を、私は点数以上に評価したいです。本作も、言うならば専門ゲーです。なんらかのジャンルに特化し、そのジャンルに関する描写をふんだんに盛り込んだ、マニアックな作品です。あの解説の少なさを鑑みれば、「分からないやつは自分で調べろ、こっちでいちいち解説などせん!」という方針なのでしょう。それは、おおいに結構だと思います。むしろ、もっとこんな作品が増えてほしいと思います。

正攻法で挑んでも、一般小説等のクオリティにはどうせ勝てないのです。かと言って、萌え要素やエロスしか魅力がないジャンルというのは哀しすぎる。萌えもエロスもおおいに結構ですが、18禁シナリオゲーたるもの、せっかく読者層を18歳以上に制約してあるのだから、そういう、18歳以上だからこそ楽しめる(そうでないと楽しめない)マニアックな作品であってほしいと思います。本作は、マニアックはマニアックですが、その方向性は経済という専門性でした。こういう、専門的なシナリオは、他にも色々書けるとおもいます。心理学、社会学、地理学、法学、行政といった方向、あるいは歴史学、民俗学、哲学、または数学、生物学、化学、工学、なんでもいいのです。いや、学問ばかり列挙しましたが、それ以外でもいいですね。人間はせっかく知的興奮を楽しめるのだから、エロゲでだって、知的興奮を楽しめるような作品がもっと出てもいいんじゃないかと思います。ここ最近はエロゲ業界のシナリオ系も往年に比べれば下火ですが、まだまだやられてないことはたくさんあり、それらをエロスやら萌えやらと絡めたシナリオというのは、ぜひまた読んでみたいものだなと思います。
評価こそ辛口ですが、こういう方向で作品作りをしようと思った(しかも処女作で)このメーカーさんの姿勢は、非常に好ましいと思っています。ひたすら上から目線ですみません。
プレイヤーが辞書なりグーグル先生なり片手に必死に色々手を動かさないと追い切れないようなゲーム、もしそういうのが出たとしたら、それはそれでいいと思うのですよ。ユーザーフレンドリーさばかり追っても出来上がるのが毒にも薬にもならない陳腐な萌えゲー抜きゲーばかりなら、そんなものは敢えて無視して突き進むのもあり・・・っていうかそういうのも出たらぜひプレイしてみたい!(でも切り捨てていいユーザーフレンドリーさとそうでないものとの見極めはやってね!)

このメーカーさんと、エロゲ業界の今後に期待したくなる作品でした。






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