穢翼のユースティア

(執筆:2011/07/15)



本レビューは、直接的なネタバレはないものの、概要に関する間接的なネタバレを伴います。
勘の良い方ならあるいはおおよそのシナリオ展開まで想像できてしまう恐れがある点、ご理解の上ご覧下さい。




メーカー

AUGUST
(安定したクオリティで純愛ゲーを出し続けるブランド。通称「八月」。べっかんこうが看板絵師。本作はこれまでの作風から一転、シリアス要素強め。)



属性

発売時期:2011年4月
ジャンル:ADV
用途:読み物、実用
舞台:ファンタジー要素も少し有りな仮想世界
顕著な属性:ヤンデレ ロリ
プレイのきっかけ:シリアスさに惹かれたから!(プレイ前の期待得点…6点)
プレイ進捗状況:コンプ



テキスト:7

あらすじ:その都市は、空の上にあった。
祈りにより都市を浮かせる聖女。そして王族や貴族。彼らは都市の「上層」…その名の通り、都市の上層に居を構え、そして庶民は「下層」にて、豊かとは言えなくともそれなりの日々を過ごしていた。
ある日突如起こった、「大崩落」と呼ばれる都市の一部の落下は、下層の下に最下層地域を生み出した。衣食住、全てが劣悪な環境。治安上の理由から、下層に戻ることも禁止された最下層民は、その地を「牢獄」と呼んだ。法も権力も届かぬ「牢獄」は、やがて組織により仮初めながらも統治され、人身売買や人浚い…様々な理不尽な理由により堕とされた者達の掃き溜めとなった。理不尽は牢獄の日常だった。
主人公カイムは、大崩落により牢獄に落とされ、人殺しを生業にすることで牢獄を生き抜いてきた元暗殺者である。現在は、組織の若き長である親友、組織の本拠地である売春宿の売春婦達や酒場の女店主、身請けした少女などに囲まれまんざらでもない生活をしている。
物語は、カイムがある夜、大崩落の時と同じ色の光を放つ少女に出会ったことから始まる。大崩落以降、都市では「羽つき」と呼ばれる奇病が発生していた。少女もまた「羽つき」だった。


…過去最高に長く書いたあらすじかも。
公式サイトの方が短く(そして美しい文章で)まとまってますが、その分設定が分かりにくいので、本サイトなりのあらすじ。というか世界設定の説明ですね。

まず作品構成。ヒロインは5人、物語は各ヒロインにスポットを当てた5章構成になっています。各章、そのヒロインと特に懇意になればそのヒロインエンド、さもなければ次の章に進むという形式ですね。基本一本道と言っても良い。
シナリオは概ね、ヒロインと心を通わせていく描写を交えつつも、各章での大きな問題に取り組んで行くというものです。サスペンス要素が強いです。おまけにちょっとした感動要素まで盛り込まれている。
各シナリオごとに完成度の高いエピソードがあるわけですね。
ラブコメ要素は控え目で、かといってシリアスすぎるわけでもなく、純愛系サスペンスとして実に無難な出来。テキストもまた、時々「上手いな」と思わせるような描写もあったりと粒揃いな印象。

つまり、何もかもが、安定して高水準。飛び抜けた魅力みたいなものには乏しいですが、万人にお勧めできる手堅さがありますね。良くも悪くも「昨今の良くできたエロゲ」という印象。シナリオもまぁまぁの出来、ヒロイン達も粗が目立つわけではなく大なり小なり可愛いから萌えゲ要素もあり、という。こういった作品の質を語る上で実はかなり重要になっている主人公も、本作は安定して賢く無闇に鈍感でもなく、毒舌キャラながら察しも良くヒロイン達にもさりげないフォローを入れられるクールキャラ……という磐石ぶり。

ただ、最終章だけは作品の質が変わります。一気にシナリオ系エロゲになる。キャラゲーなどではない。だからこそ、「いつもの八月」以外は期待してないメーカー買いしてる層からは反感をかうし、シナリオにも少なからず関心あるファン層からは八月の進化だと賞賛されるし、むしろシナリオこそが目的だった私なんかは最終章で評価が跳ね上がったりしたのでしょう。
後から冷静に考えれば最終章もまた王道展開まみれなのですが、プレイ中はきっちり心掴まれました。
そしてなにより、本作ならではのメッセージ性、問題提起というか、そういうのが見られたのは個人的に非常に良かった。私はシナリオゲーに関してはそういうところに何よりも注目しているので。
エンターテイメントとしても間違いなく良質であるが、ただのエンターテイメントではない。本当に、メッセージ性も含め、飛び抜けた魅力こそなけれどオールマイティに高品質なシナリオでした。

ちなみに私の章別評価。
1:5.5
2:7
3:6
4:6
5:8.5




ゲーム性:3

分かりやすい選択肢ばかりなので、ゲーム性は無いに等しいと言ってもいいかも。ただ一部、選択を迷わせるようなものも埋め込んでありました。なかなか憎らしい演出だと思います。




実用性:5

私は、純愛ラブシーンのHシーンって一切実用に使えないクチなのでぎりぎり不合格の5点にさせていただきましたが、そういうのがいける人なら2点くらい上乗せしていいかなと。
Hシーンも豊富です。Hシーン過多によって本編が中だるみしないよう、シナリオ上重要なHシーンと、その他のHシーンを分けてあるのがご立派。その他のHシーン(ご褒美シーン的な意味で)は、そのヒロインルートをクリアしたら別個に解放されます。ただHシーンがあるだけでなく、ちゃんとエピソード的小シナリオもつけてあるのが素晴らしいですね。
べっかんこう氏の絵がお好みならば、満足なボリュームではないでしょうか。尺も長いし。
…そうそう、不合格5点のもう一つの理由は、フェラシーンでロクにヒロインが口に咥えないからですね。咥えたらせっかくの顔が崩れるもんね。分かります。



音楽:5

曲数はかなり豊富ですね。40曲くらい?
曲が前面に出てくるような、インパクトの強さはなかったです。どれもBGMに徹する系の、控えめな印象。作品の雰囲気に合わせた楽器選択だと思います。
ボーカル曲が3曲くらい?この辺のボーカル曲は、個人的にどれも好みでした。

ボーカル曲:3曲か4曲



キャラ:5

主人公:カイム(名前変更不可),上述しましたが、元暗殺者の牢獄民。クールでぶっきらぼうな性格で、苦労した過去故か非常に現実的な思考の持ち主。一方で面倒見の良さ、さりげない優しさ(本人は認めない)も多分にある。
ユースティア:いつも敬語ながら明るく元気で人のいい少女。自分には生まれてきた理由があると信じている。
フィオネ:「羽根付き」を保護する通称「羽根狩り」の隊長。自他に厳しく、真っ直ぐで間違ったことを許さない人間。不器用ながら、隊員達からの人望は高い。
エリス:数年前、娼婦にされるところをカイムが身請けした女。現在は医者で、クールな性格。カイムはエリスに自由に生きてほしいと言っているが、自分はカイムのものだと言い張り聞かない。
イレーヌ:祈りにより都市を浮かす聖女。非常に信仰心に篤く、自分の中の信仰を強く持っているが、頭が固いというわけではない。
リシア:王女。現在の王は病のため執政官が実質の政治を牛耳っているが、王が崩御すれば政権はリシアのものになる。しかし見た目に類しまだ次代の王としての自覚はそう強くなく、自由に城の中(時々外も)を走り回っている。出自故尊大な口調だが、根は素直な少女。

…ちょっと語りすぎたかも。多分誰も読んでないでしょうから別にいいか。
さて、頭の良さがプレイヤーに負けていない、というのはシナリオゲーにおける重要な要因だと思いますが、本作はまさにそれ。メチャクチャかっこいいとか魅力的とかいうわけではなく、むしろオーソドックスな主人公像ですが、一方で失点も極めて少ない。プレイヤーとのシンクロ度の高い現実的思考の持ち主です。これは王道のようでありながら(多くのライターの力量不足故)ひょっとすると稀少な逸材かも知れない。

ヒロイン達も同様、飛び抜けた魅力をもったキャラというのはいないと思います。シナリオ進行とともに自然と愛着がわいてくるヒロインばかり、という印象。



声:男女

主人公含めフルボイス。(八月では主人公ボイスありは本作が初らしいですね。)
声への不満は一切ありません。というか完璧すぎる。何が完璧って、Hシーンに入ると主人公ボイスが消えるところ。良い仕事です。

声は、これまた、飛び抜けた上手さ、魅力というのは感じられませんでしたが、上述のように不満一切無し。一事が万事そういう作品なのですね。完成度ぱねぇ。



時間:5

最近のシナリオゲーとしてもボリューム多い方にはいるのではないでしょうか。メチャクチャ長いという感じはしませんでしたが、満足のボリューム。ベストサイズかも。



その他

システム:ほしいものはだいたいあるのでは。

演出:基本的に主人公視点ですが、しばしばザッピング形式と申しますか、他キャラ視点でのシナリオ語りが入ります。




お勧め度:8

万人にお勧めできる、非常に手堅い作品作りと言えます。
その反面、何度も書いてきましたが飛び抜けた魅力というのにも乏しいのですが。
シナリオも、適度に面白いですが時間を忘れてプレイしてしまうといった中毒性のようなものは感じられませんでした。キャラの魅力についても、ギャグについてもそう。
作品作りはどこをとっても非常に丁寧にされていますし、「安心してお勧めできる」のは本当に間違いないのですが、あまり期待をもってプレイしても肩透かしをくらうかも知れませんね。
あと、あるいは私のように勘違いしてる方もおられるかも知れませんが、別に「牢獄」だけが舞台というわけではないので。「牢獄」関連の描写にあまり期待してると、やはり肩透かしをくらうでしょう。
これらの点を踏まえてプレイすれば、決してハズレはないと思います。↓ハズレがあった人の感想




気に入り度:7

ここまで散々褒めちぎってきたので、ここくらい不満点書き連ねてもいいでしょう。

発売半年前くらいからずっと楽しみにしていた本作ですが、私が楽しみにしていた一番の理由は、「不条理」の描写。「牢獄」という掃き溜めのような劣悪環境を舞台とした不条理描写必須のシリアス系シナリオと聞き、期待に胸が高まったものです。
別にそんなものはなかった。一応あったけどほとんど他人ごとだった。だってメインは「いつもの八月」ですものね、そりゃそんな欝系のだるい描写なんかせんわ。「昔は大変だったんだぜ」で済ませるわ。
これがマイナスポイントその一。
その二は、その流れで「いつもの八月」は別に私が期待したものじゃなかった点。何度も繰り返すように、決してマイナスだったわけではないのですが。「期待してたものと違う」という個人的マイナス。

最終章で「個人的にプラス」にはなりましたが、トータルで見ると「期待していたものとは違った」とは言わざるを得ない。

そしてあと一点。間違いなく良作、いや秀作なのは認める。しかし一方で、万人ウケするように(特に萌え系ユーザーの反感を買わないように)キャラ設定等を巧妙に操作してあるあたり、ガチシナリオを期待していた私から本作への愛着というものを奪った要因だと思ってます。舞台設定の凄惨さの割に、シナリオは童話のような雰囲気ですからね。



(この作品については、プレイ後レビューでも触れています。)

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