赫炎のインガノック -What a beautiful people-

(執筆:2012/05/27)

メーカー

Liar soft
(ヴィジュアルノベル系ゲームの老舗。昨今は本作などスチームパンク系がメインコンテンツ。女性ファンが多いのが特徴。)

属性

発売時期:2007年11月
ジャンル:ADV
用途:読み物
舞台:仮想のファンタジック機関都市
顕著な性属性:
プレイのきっかけ:評価高かったから(プレイ前の期待得点…7点)
プレイ進捗状況:1巡クリア、2巡目途中

テキスト:7

あらすじ:計画都市インガノックは、10年前に起こった謎の大変異事件「復活」以降、 何もかもが変わってしまった。
人々に災厄をもたらす"クリッター"と呼ばれる化物達。生まれ出る幻想生物。 そして都市の人々もまた、自身の身体の一部あるいは全てが幻想生物へと変異した。
インガノックは、閉ざされた都市である。都市下層に生きる市民達は、 今日も貧困や犯罪や恐怖やらと隣合わせの中、日々を繋ぐのだった。
主人公ギーは、"数式医師"という特殊技能を備えた医師をやっている。
金を稼ぐことはいくらでも出来るだけの技量を持ちながら、専ら都市下層・最下層の 市民に乞われるまま治療を行い、なけなしの礼金のみを得るだけの日々を淡々と過ごす。
ある日、ギーは謎の少女キーアと出会い…

あらすじ長すぎなのはわかりますがこれ以上短く私にはこの作品を説明できん。
けれど、だいたいの世界観もほぼ漏らすことなく書けたと思うので、この作品について 全く知らないかたは軽く目を通していただけるとこの後のレビューも理解しやすいかと思います。

さて、かく言う私自身が、本作について全く知識なく挑んだのですが。知ってた知識と言えば、 本作が「スチームパンク」とかいうジャンルに分類されていること。
で、プレイしてかなり戸惑いました。「えっ、スチームパンクってこういうのだっけ?」
スチームボーイみたいなのしか想像してなかった私の方が問題なのかもですが、にしても本作、「スチームパンク」という言葉から私が想像していた作品とはかなり違いました。
何が違ったか。プレイ後の今私が説明するなら「スチームはともかく、パンク…?」 って感じなのですが、プレイ中の違和感を一言で説明すると、「熱くない」。中二系では全くありません。主人公もそうですが、少年漫画・青年漫画…要は男向け作品で描かれるような熱さはほとんど無い。
じゃあ醒めているかというとそうでもないのでむつかしいですね。テキストは、 非常に個性的です。ノリとしては、私は大学生の自作演劇のノリに近いのかなぁと思います。 重複を多分に含む独特のテキストスタイルで、否応なしにプレイヤーをその世界観に引きずり込むタイプ。 それに引きずり込まれるか否かはプレイヤー次第でしょうが、とにかくそういうタイプです。
そして、展開。章立てになっており、各章で1体ずつ主人公がジョジョのスタンドみたいなの使って ボス的な存在を倒す形式なので、こう書くと完全に少年漫画のノリなのですが、実際のノリはそうでもない。
ライアーって、女性ファン多いブランドじゃないですか。
印象ですが、とにかく、女性向けな感じ。だから、毎週ボスを倒すというのも、ノリで言うならまだ 少女漫画とか大きいお友達が大好きな朝のアニメに近いかも知れない。
戦闘描写は、極めて短いのですよね。また、淡々と終わる。
結局本作で描かれているのは、主人公を始めとする都市インガノックで生きる人々であり、 戦闘シーンはおまけでしかないというか。

テキストは、静かで、それでいて情熱的(ナルシズム入ってる)。言うまでもなく詩的で、時として示唆的。そしてしばしば、非常に難解かつ思わせぶりです。そしてそれらが、本作の大きな見どころです。また蛇足かも知れませんが、素人ライターにありがちな安定感の無さも全く感じませんでした。

長くなりました。
で、結局面白いかと聞かれると。
正直、微妙でした。というか、はっきり言って本作は「面白い」作品ではない。浸れるか否か。これでしょう。
私が大好きな竜騎士よろしく全力で説教してきたりしません。メッセージ性とかは皆無に等しい。
ただただ、世界に浸り、テキストに浸り、おはなし(シナリオではない)を楽しむ作品。
「大人のための童話」なんて表現もされたりするようですが、いやぁ童話はもっと教育的 (つまりメッセージ性有)だと思うな…。
なんか、ライアーに女性ファンが多い理由が分かった気がします。
女性ウケするような作りですし、男性ウケするような作りではないw
もちろん、主人公が男だったり中二的な戦闘シーンがしょっちゅう挿入されたりHシーンがあったりもするので 男性向けでないわけではないのです。
ただ、エロゲ業界にあって、あえて男女問わず楽しめる、浸り系の作品を生み出したのは、 やはり喝采に値するんじゃないかなと思います。

あ、プレイ済みの人はお気づきでしょうが私が今つい使ってしまった「喝采」っていう単語、 作中でしょっちゅう出てきて段々ツボってくるので、覚えておくといいかもです。

ゲーム性:4

章形式になっているのですが、各章で1回ずつ、その章でのキーキャラクター達からプレイヤーが 自身の考え・想いを聞けるコーナーがあります。
そのコーナーでは、最初から最後まで選択できるキャラは限られており、 その都度どのキャラを選択したかで、次に選択できるキャラ(複数)が出現する形式。
上手く順番を選べれば全ての台詞を聞けるのですが、失敗すると途中で打ち止めになる。
そして、失敗するとその後に正解の選択肢が出現せず、バッドエンドで終わる。

なかなか独創的なシステムで面白いと面白いと思います。ゲームとして楽しいかと問われると微妙なのですが。
少なくとも、ルート分岐を求めて同じシーンを何度も行ったり来たりする必要は、 (このコーナーを除き)一切ありません。

実用性:2

いやぁ・・・ これはかなり使えない部類ですよ・・・。
そもそも使おうって発想になる人は少ないと思いますが、にしても使えない。
これ、女性絵師さんですよね?そんな感じがする。Hシーンも、 ほんと「実用シーン!!」というより「そういう場面のシーン。」っていう淡々ぷり。 綺麗ですよ。
そしてもちろん、テキスト描写も最低限!
はっきり言って、スタッフが「実用」感を忌避している感が濃厚に伝わってきます。

音楽:7

曲数は18曲。さらに作中でよく使われる曲となるとそのうち2/3程度なのでかなり少ないのですが、 それでも音楽はかなり良いですね。作品にピッタリ合う。
「メチャクチャ好き!」「完全にハマった!」みたいな曲はないのですが、 「この曲好きだわ」ってのが何曲もあります。
高評価作品というのは、ほんと漏れなく音楽のクオリティが高いものですよね。
聞こえてますかエロゲメーカー(特にシナリオ系)の皆さん!

ボーカル曲:2曲

キャラ:6

主人公:"ギー"(名前変更不可)。巡回数式医師(クラッキングドク)。都市下層で治療を求めている者に援助を差し伸べる日々。感情や欲の発露も無く、最低限の食事・睡眠のみで日々を淡々と治療に過ごす。
キーア:ギーのアパルトメントで共同生活をすることになった、謎の少女。品が良く性格も明るく気立てが良くギーのサポートも良く務めるが、自身の正体・出自については語らずギーもムリには聞こうとはしない。
アティ:10年前の"復活"以来「猫虎」という異人種に変異した、見た目は人と黒猫の合いの子のような女。荒事屋をやっているがその極めて高い身体能力ゆえこれまで数々の危険を切り抜けているベテラン。ギーとはほぼ10年来の付き合いで、よくギーが寝ているところに音もなく忍び込んで来て一緒に寝る。

メインヒロインっぽいのは2人でしょう。キーアとアティ。キーアは、「レディ」になろうと背伸びした女の子、という感じです。でも実際、外見が幼いところとそれを指摘されるとムキになって怒るところ以外は、立派なレディです。
アティは、見た目どおりの猫キャラです。おそらく多くのプレイヤーが、アティを気に入るんじゃないかと思います。

声:男女

パートボイス!マジでパートボイスです。ほんの一瞬しか声がない。
なんだっけ、「大機関ボックス」でしたっけ。あれならフルボイスなんだっけ?
いやたしかに残念ですが、これフルボイスで聞いててもちょっと間延びした気もするので、 これでいいや。
パートボイスってのはパートボイスなりの間延びがありますけどねw
特に本作は、同じ台詞が何度も繰り返され、しかもそこをボイス有りにしてあるから、 使い回し臭は拭えない…!

ただ、その使い回しされてる台詞、割と熱くて、私なんかファンの方に怒られそうですが ゲーム進めていくうちに段々と笑えてきて(ry

あ、あと一部棒読みな音声ありますのでご用心を。

時間:4

標準的なAVD程度の分量、もしくはそれより少し短いくらいではないでしょうか。

その他

システム:通り一遍のシステムはちゃんとありますし、特に不自由はなかったですね。一方で便利さも特に感じませんでした。 まぁ、少し前の作品ですし、なによりライアーですし。

演出:テキストがすでに演出なのですがww うーん、CG出てくるたびに「テキストOFF」状態になるのは、正直余計な 仕様だと思いました。見たかったらこちらで見ますから、読む進行を止めるのは我に返ってしまうから やめてほしいですね。
あと、細かな演出は色々ありますが、まぁ、せいぜい2003年頃のレベルですね。期待しちゃいかん。

お勧め度:6

いやぁ〜…
確かに、批評空間とかでの評価はかなり高い…ていうかここ最近のライアーで最高レベルの高さですけどね。
そのレベルを期待してプレイすると、私みたいに「あらっ?」ってなるんじゃないかな。
本作は、上述したようにあくまで「浸りゲー」です。そんな、血沸き肉踊る系の興奮があるわけではない。 シナリオ自体も、つまらないわけではないですが、シナリオの妙でプレイヤーをグイグイ引きこむ系ではありません。
けれど、テキスト回しは、やはりエロゲ業界ではこのライターさん以外書けないんじゃないかなぁ。

毎日が暇すぎもせず忙しすぎもしない人が、余暇の時間を見つけてじわじわと進めるのに最適でしょうね。
特に、社会人女性プレイヤーなんかにはうってつけな気がします。
とにかく、「浸りゲー」です。


気に入り度:6

ここ最近、「穢翼のユースティア」が注目集めたじゃないですか。
私、あの理不尽で絶望感漂いまくりな世界観に惹かれてあの作品購入したのです。
プレイ済の方ならお分かりでしょうが、そのあたりに期待するとがっかりさせられるのですよね。
本作は、ユースティアでがっかりしていた私がその後でプレイするには実に良かったです。
ユースティアと非常によく似た世界観ながら、ユースティアより理不尽で、喧騒に包まれた都市に漂う そこはかとない絶望感・虚無感もしっかり描かれています。私はその辺の空気大好きだなぁ。

シナリオについては、結局いつもどおりの「ちゃんと予習せず評判だけで購入するからこうなる」の典型例でしたが、それでも、期待とは違った魅力が感じられて良かったです。
だいたい中盤くらいから、じわじわ面白くなってきましたね。本作の見所は、なんだかんだでちゃんと味わえたと思ってます。
そして、最後までプレイ終えたら、ようやくだいたいの伏線が薄らぼんやりながら理解できて、そこでようやく余韻に浸れました。

ところで。
正直ね、この「気に入り度」点、「お勧め度」点と同じ6点か、さもなくば5点にしようと思ってたのです。序盤中盤とか正直結構先進めるの億劫でしたし。
が、クリア後、ちょっと気が向いてもう一度はじめから始めてみたのですよ。
やばいかなり面白い。
序盤の雰囲気、めっちゃいいじゃない。
そしてその面白さの何割かは、一度最後まで終わらせてないと十全に実感できない面白さですね…。
(というか初見だと私自身そうでしたが意味不明だという…)
それよりなにこれ。私のキャラ達への愛着すごいんだけど。やばいすっごい浸れる。

ということで本作は、繰り返すことでまた味わいが変わる作品であり・・・
いや、ある意味、本作は、プレイヤーが1巡とりあえず終わらせてようやく、本当の魅力を発揮するのかも知れません。
→後日追記:しかし中盤になるとやっぱり退屈になった!!



(この作品については、プレイ後レビューにても触れております。)

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